おべんと祐一

 

「北川、昼休みだぞ!」

「おう、相沢!昼休みは何をする時間か知っているかい?」

「昼食をとり、談笑をする時間さ!」

「少し違うな。次の時間への英気を養う時間だ!」

「なるほどそうだったのかっ!」

「まあむしろ5時間目に英気を養っているけどな、俺達は!」

「全くだ!ハッハッハ!」

「あなた達、パン売り切れるわよ」

「おおっ!しまった!」

俺達は一路購買へと走り出した。

 

「……っと、俺、今日は弁当だった」

一階へ下りきって、最後のダッシュをかけようとしたところで北川は弁当持参であることを思い出し、戻っていった。

アホだな。

「……アレ?」

財布……忘れた。

ポケットにもないし、上着にもない。

「………」

俺は肩を落とし、腹を鳴らして屋上付近のあの場所へ向かった。

「こんにちは、お二人さん……」

舞と佐祐理さんはいつものようにでかい弁当を広げて待っていた。

舞は俺を一瞥するとまた弁当をじーっと見る。

全身で空腹を表現してるよな、こいつは。

「どうしたんですか祐一さん?」

パンを持たず、やるせなさを全面に押し出すようにいた俺を見て佐祐理さんは尋ねてきた。

「ハハ、金忘れちゃって。少し貸してくれます?」

「ドルとユーロ、どっちがいいですか?」

「円でお願いします」

「あははー、冗談ですよー」

俺がお願いすると、佐祐理さんは笑って言う。

でも、きっとこの人はドルもユーロも持ってる気がする。確信できる。

「どうせならこのお弁当食べたらいいじゃないですか」

舞が不機嫌そうな顔をした。

「テリトリーをあらすな、祐一」

いつから佐祐理さんの弁当がお前のものになった。

「いや、おかずを少しもらうだけならまだしも、普通に食ったら佐祐理さんの分(舞の分はかまわない)がなくなっちゃいますよ」

うれしいが、やっぱり遠慮をしておく。忘れた俺が悪いんだからな。

「平気です。祐一さんは今日あたりお金を忘れるってテレビの占いでやってましたからー」

「それじゃ、いただいていいんですね?」

わかりやすすぎて相手によってはイヤミともとられかねない冗談だったが、

佐祐理さんはイヤミなんぞ言う人ではない。

俺は素直にご厚意に甘えることにした。

 

「うー、やっぱり手作りの弁当に勝るものはないなぁー」

佐祐理さんの弁当はいつ食べても店に出して通用すると思えるおいしさだ。

「舞には絶対不可能だなぁー」

でしっ。

「ごぇっ」←声にならない声

「何の鳴き真似だ、祐一」

つっこみを入れた張本人が言う言葉か、それは……。

俺は一呼吸おいて息を整えてから言う。

「舞、ノドの下の、ちょうどへこんでるところを、箸でずびっとつっこんだらどうなると思う?」

「ごぇっ」

「わかってんじゃねぇかアホ舞!」

「自業自得」

「………」

「……一挙両得、魑魅魍魎」

「は?」

舞はよくわからない四字熟語を列挙した。

話をはぐらかそうとしているのかと思ったが、そうではなかった。

「あははー、今日四字熟語のテストだったんですよ。だから後遺症なんだよね、舞?」

佐祐理さんは舞に”ね♪”とでもいう風ににっこりほほえむ。

すると舞の方もほとんど表情を変えずに”ね♪”とやった、のだと思う。

そして、俺を指さして、

「相沢祐一」

「俺の名前は四字熟語じゃねぇっ!!」

はぁ……昼間っから怒鳴ってばっかで疲れてしまった。

舞は俺に怒鳴られていったんは黙った。

だが、

「祐一連続怒声疲労困憊」

「すでに漢文の領域じゃねぇか、それは」

こいつ、次にどの四字熟語使おうか考えてやがったな……。

「二人とも落ち着いて食べましょう。佐祐理、二人を見てると可笑しくて食べられないですよー」

佐祐理さんは俺らを漫才コンビだとでもいいたげな口振りだ。

まあ俺は佐祐理さんに言われて、とりあえず落ち着くことにする。

もちろん、舞の方はもともと冷静なので落ち着かねばならないのは俺だけだった。

「いやしかしほんっと佐祐理さんの愛情こもった手料理なんてこの学校だけでもかなりの人数が夢見てると思いますよ」

「そうですかぁ?佐祐理みたいな頭弱い女の子を相手してくれるの、祐一さんくらいですよ」

それはライバルが多すぎて不用意に近づけないだけなのだろう。

「このこと3年の男どもに自慢したら俺、闇討ちにあいますよ」

事実、それはかなりの高確率で起こりうると思う。

「闇討ちに会い沢」

ばしっ。

「とりあえずつっこんでしまったが、意外と面白いな、それ」

「ほんと今の面白かったよ、舞」

と、シャレをいったくせに誉められても特に反応せずに弁当食ってるんだからよくわからん奴だ。

「だから、佐祐理さんもストーカーには気をつけた方がいいですよ、マジで」

「平気ですよ。もし何かあっても舞がいますから」

と、佐祐理さんはにこにこしながら舞の方を見る。

すると、舞は

「佐祐理は私が守る」

「吉野屋付近では特に気を付けて下さい」

ずびっ。

俺は舞の決意の発言を無視したため箸でつっこまれた。

「あのな、頬でも思いっきりつっこまれりゃ痛いんだぞ。わかるか?」

「祐一が私を無視したから」

「細かい忠告を佐祐理さんにしてたんだからいいだろ?」

「でも無視した」

「佐祐理さんの命に関わるんだぞ」

すると舞は、

「佐祐理は私が守る」

「吉野屋付近では特に……」

「ループしてますよ」

良かった、佐祐理さんは気づいてくれた。

「いやぁ、つっこまれなかったらどうしようかと思いましたよ」

「祐一はつっこまれたい派なの?」

とりようによっては変態と誤解されるな、その発言は。

「もう、時間なくなりますから、祐一さんも食べないと」

時計を見ると、あと8分。

「早く食べよう、舞」

「……」(こくり)

こういうときは必ず意見が一致することを喜ぶべきなのだろうか。

 

俺はあの後、きれいに佐祐理さんの弁当を食べきり、満足して教室へ戻った。

「今帰ったぜ、北川!」

「おう」

北川は威勢良く応えてくれる。さすがは友人以上親友未満だ。←微妙

「場の雰囲気は温まってるか?」

「いえ、湿ってます」

「そうか…それなら…」

「起立」←斉藤

「………」

「………」

ここから話が発展していくところだったのにいいタイミングで斉藤の号令が入った。

あいつ、レギュラーねらってやがるな……。

斉藤がにやりと笑うのを、俺は見逃さなかった。

ちなみに5時間目はよく英気を養うことができた。

 

「放課後だおー」

「……」

今日の授業もこれで終わったので、俺は帰る用意をはじめる。

「部活だおー」

「……」

「……」←なんか寂しそう

名雪は二言残して部活へいってしまった。

少しくらい相手してやりゃ良かったかな。

また、北川はというと日直のため日誌を書いている。

「じゃあな北川」

「おお、また明日会おうぜ」

「生きろよ!」

「お前もな…」

「アホやってないで早く帰ったら?」

俺は香里に冷たく言われ、教室を出た。

そして階段までやってきたとき、

「おや、あのアンバランスなコンビは」

俺はコンビにかけより、コンビAの肩をたたいた。

「よっ、舞、佐祐理さん」

「コンビAって何」

人の心読むなよ。

「あ、祐一さんも今帰りですか?本日もお勤めご苦労様でした」

「いや、俺なんかお勤めと休憩の比率が1:1ですから」

北川は1:3くらいだけど。

「あ、そうそう。今日は弁当フルに食べさせていただいてありがとうございました」

昼休みは忙しくてろくにお礼も言えなかったので、今言っておく。

「あははー、そんなかしこまらなくてもいいですよー」

「でも、弁当ってほんといいもんですよ。購買のパンとは違う…」

「ご飯だから当たり前」

「そういう話はしとらん」

話の趣旨を全くわかってないところがまた舞らしいといえばそれまでだが。

「じゃあ作ってもらえばいいじゃないですか」

「……あ、そうですね」

今まで居候の身だから無意識に遠慮してたのかもしれないが、言われるまで全く考えに上らなかった。

実際秋子さんも仕事があるから余計なのかもしれない。

でも一回くらい作ってもらいたい気もするなぁ。

「ちょっと聞いてみることにします」

と、そこに舞がまたもや割って入ってきた。

「少し食べさせて」

「図々しい奴だな」

「あははー、でも私も食べたいです。祐一さんのお弁当」

「まだ作ってもらえるかわからないですけどね」

その後、俺達は校門のところまで世間話をし、別れた。

 

「ただいまー」

「お帰りなさい、祐一さん」

部活のない俺よりも早く帰ってくる仕事ってどんなのか見当もつかないが、

とりあえず先に帰っていた秋子さんが迎えてくれる。

俺は部屋にバッグを置き、ダイニングへ赴いた。

「飲み物ならオレンジジュースくらいしかありませんけど」

秋子さんはソファーで何やらノートに書き込んでいる。仕事だろうか?

また、秋子さんはいつものように俺が水分補給にきたものだと思っているらしい。

だが、今日はもう一つ目的があった。

「秋子さん」

「はい?」

ペンを動かす手が止まり、俺の方を見る。

「あ、あの…」

「何でしょう?」

「俺に、弁当つくってくれませんか?」

するとわざとらしく、”困ったわ”と手を頬に当てる。

「まぁ、愛の告白ですか?」

「それはシャツですよ、秋子さん」

「あら、よく知ってますね」

自分でもよく知ってるな、と思ったが今はそんなことどうでもいい。

「えっと、ですから……」

「いいですよ。秋子おばさんがお弁当つくってあげます」

「ほんとですか?!」

俺は年甲斐にもなく飛び跳ねるような勢いで喜んでしまった。

でもちょっと図々しかったかもしれんな…。(舞ほどではない)

「ふふ、男の人にお弁当つくるなんて何年ぶりかしら。ちょっと楽しみ♪」

この人、見た目も若いけど精神年齢も実年齢と合ってないないんだなぁ。

でも、まぁ楽しみといってもらえるとこっちも幾分気が楽だけど。

「どんなお弁当にするか考えるから祐一さんはあっちへいってて下さいっ」

「あ、ああ、ハイ」

秋子さんはノートを裏表紙から開いて、そこに鼻歌混じりに何やら書き始めた。

俺はその日、終始弁当が頭から離れなかった。

 

 

次の日、朝起きてダイニングへ向かうとテーブルには見慣れない小包が置いてあった。

「お弁当、残さず食べて下さいね」

「はい、ありがとうございますっ!」

俺はいつにもなく朝からテンションが上がり気味だった。

「はい、名雪もお弁当」

「ありがとございまふぁ」

ゴチ。

当然、おじぎをした名雪がテーブルに頭をぶつけた音である。

 

 

昼休み。

「うおおおおおっ!昼・休・みいいいいいい!」

「相沢、クスリだけはやめとけって言ったのに……」

ゴン。

ハイテンションのため手加減できなかった。

だが俺は苦しむ北川を放っておいて弁当をとりだし、いつものところへ急いだ。

「こんちはっ!弁当つくってもらいました!」

俺は急ぎすぎたためハァハァいいながら座り、早速包みを開ける。

「……おおお」

すごかったです。

「はえー、すごいですねー」

弁当自体は大きな物ではなかったが、味はもちろんのことバランスや彩り、

すべてを俺の好みを知った上で完璧に仕上げていた。

うん、佐祐理さんには悪いけど秋子さんの勝ちかも。

舞も少し食べてみて

「佐祐理にひけをとらない」

と言う。

俺はバイオリズムメーターを振り切りながらありがたくいただいた。

 

「さて、それじゃこれはデザートかな?」

弁当と一緒に包んであった弁当より2まわりほど小さいもう一つの容器を見て、ふたをとる。

カパッ。

「じゃむ」

正方形の小さな容器にはなみなみとジャムが入っていた。

「佐祐理、完全に負けましたー」

「……」

『残さず食べて下さいね』

『残さず食べて下さいね』

『残さず……』

俺の脳内では死の宣告が、何度も何度もリピートされているのだった。

 

終わり

 

 

コメント:

どうも、更新速度が遅いくせに音速秘書です。

今回は祐一がいっつもパン食ってばっかなので、弁当の話にしました。

秋子さんの弁当ってすごそうですよね。全部手作りでしょう、きっと。

そーいや、学校ではコンビニ弁当食ってる奴がたまにいますけど、みなさんは食べます?

私はコンビニ弁当って味が濃いのでたまにしか食べないです。なんか太りそうだし。

やまけんは弁当食わないけどお菓子をやたらめったら食べてるので結構心配です。

塩分とりすぎて倒れられたら面倒なので少し控えて下さい。

みなさんもコンビニ弁当、お菓子は”たまに”しておきましょう。

それでは、また今度。


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