式神を使おう

 

「なぁ相沢」

「あん?」

「いやらしい声出すなよ」

「アクセントが違うだろ」

「それもそうか」

「それで何の用だ」

「モノは相談なんだけどよ」

「MONO消しゴムなら文房具屋に売ってるぞ」

「MONOの相談じゃねぇ」

「JOMOは石油」

「JOMOでもない。モノは相談だがって言ってるんだ」

「ああ、すまん勘違いしてた」

「それでよ……ぉ」

「…なんだ……。くっ…ぅぅ」

「ぐはぁっ。はぁ…はぁ…」

「ふぅ…はぁ…」

俺と北川はとりあえずそこで話を区切った。

というよりも呼吸をせずに無理にそこまで話きったので、二人とも息が苦しくなっていたのだ。

これ以上一度にしゃべると命に関わる。

「ふぅ…呼吸をせずに会話を全て終わらせるというのは危険だな」

北川が真摯な顔つきでそう言う。

「ああ、身をもって体感した」

もちろん俺も凛とした雰囲気を崩さないままうなずく。

「あなた達、会話のはじまりっていっつもそんな感じよね」

「会話の内容と雰囲気がともなってないよ、祐一」

「こういうギャップ差がまた面白いだろ。それぐらいわかれ、名雪」

「わからない、というかむしろわかりたくないよ…」

まあ、名雪じゃそうだろう。やはり俺の心理をわかってくれるのは北川しかいない。

「北川、それで話ってなんだ?」

「ああ、相談相談」

「ほぅ、相談か」

「式神使いたくないか?」

「そういうのは相談とはいわん」

「……じゃ相談じゃない相談として、式神使いたくないか?」

「何が言いたいんだお前は」

北川の言葉は理解しがたいが、とりあえずのってやることにする。

「じゃ、問1:式神の例とその式神を使った感想を述べよ」

「水道水のカルキくささをぬいてくれる式神」(例1)

「…………」

「ついでにイオン化もしてくれて体にもいい」

「………………」

「あ、そうだ。ゴミフィルター式神も必要だな」(例2)

「……」

「いい水のためにしっかり働いてもらわないと。うんうん」

「…………」

「式神って便利だなぁ」(感想)

「そういう結論に達せるお前は尊敬に値する」

「いやぁ、尊敬されるなんてうれしいなぁ」

北川は俺がバカにしたにも関わらず、普通にうれしそうにしている。

幸せな奴だと思う。

「北川君、実は相沢君にバカにされてるのよ。気付きなさいって」

「何?!相沢、貴様、俺をバカにしているのか?!」

「いや。尊敬してる」

「なんだよ美坂〜。バカにしてないって言ってるじゃんか。早とちりだなぁ、はっはっは」

簡単に俺を信用して、あっけらかんとした笑いをとばす。

きっとこいつは俺がこいつの弁当を盗み食いしても俺じゃないといえばあっさりと信じるだろう。

「……あ、頭痛くなってきた…」

「香里、大丈夫?」

香里は北川のあまりの頭の悪さに、頭痛がし始めたようだ。

そりゃ学年一位の香里にはこのバカさには耐えられないだろう。

「ところで北川。カルキ抜きの式神とか言ってたな」

「おう」

「極限バカ」

「なっ!お前やっぱり俺をバカにしてたのかっ!!」

「気付けよ」

「……ごめん、全く気付かなかった」

そして何故か謝る北川。

「あのなぁ、式神って、陰陽師かお前は」

「だって、安倍晴明かっこいいじゃん」

「それにカルキ抜きなんてなぁ、六甲のおいしい水飲んでろ、このあっぱらぱー!」

「あっぱらぱーとはなんだ!安倍晴明バカにするなっ!」

誰も安倍晴明なんかバカにしてねぇよ!お前がバカだって言ってんだよっ!お前と話してると常人の3倍疲れるんだよ!

「そんなこと百も承知で、だけど精一杯生きてるんだよ、俺はっ!!」

北川はちょっと泣きそうな声で叫んだ。

「……あ、そうなんだ。……ごめん」

「いや、いいんだ。わかってくれれば…」

俺達は和解した。

「だからあなた達、そういう風に丸く収まるのは何故なの?」

「絶妙のコンビだよね…」

香里は机で頭抱えつつ俺らを横目で見ている。

「しかし式神なぁ…カルキ抜きはどうかと思うぞ」

「だって、現代日本は水が危ないって、NHKのこどもニュースで…

「高校生なんだからせめて、普通のニュースみろよ」

「いいじゃないか、わかりやすいんだから」

北川は全く引け目を感じていないらしい。

「北川君ってこどもニュース見てたんだ…。幻滅…」

「さすがに引くよね…」

むしろ女性陣二人の方が引いていた。

「な、北川、香里達もああいってることだし今度から普通のニュース見ようぜ?」

「……ああ、そうする」

女性陣に引かれたことによって、俺って実は世間とちょっと違うことしてるのかな、と思い始めたらしい。

「それにさ、やっぱカルキ抜きなんかしないで最初からvolvicとか飲めばいいじゃん」

「volvicか…。俺どっちかっていうとevian派なんだ」

「あ、実は俺もevian派なんだけどさ」

「え?お前もか」

「ああ。evian万歳だ」

「なんか、そういうのって少しうれしいな」

「俺もだ」

俺達の友情は意外なところから深まった。

「意外すぎるわよ」

「俺の心を読むな、香里」

香里は常に俺達につっこみを入れようと待ちかまえているかのようだ。

「相沢君の心理を読みとる方法、名雪に教わったの」

「私が教えたんだよ、すごいでしょ」

「俺にとっちゃ迷惑以外の何者でもねぇ」

「まあ、正論だな」

北川だけが俺の意見に賛同してくれる。やはり持つべきものは友だと思うときだ。

「北川君。相沢君の心理が読めるとすっごーく面白いわよ」

「あ、教えてください。美坂さん!俺もあのアホ沢の心理読みたいです!」

前言撤回。

「名雪よ…。俺の心理読む方法って、どうやって会得した。そしてどうやって香里に伝授した」

何も考えてないような顔をしつつ、心の奥底では俺を陥れようとしているのではないかと疑ってしまうような行動が最近多い名雪に直接聞く。

「随分な思われようだね。私」

「その原因となる技能をいかんなく発揮しながら言うな」

「私、祐一のいとこなのに信用ないんだね…」

ふっ、と暗い影を落とす名雪。それをみて、同情したのか香里と北川が俺の敵にまわる。

「ひどいわよ相沢君。名雪と血がつながってるのに。最低。遠くの親戚より近くの他人って言うけど、相沢君の場合近くの親戚なんだから大切にしてあげなきゃダメじゃない」

「そうだ、ひでぇぞ相沢。水瀬さんはお前があまりにもわかりにくいから知らず知らずに読心術を身につけてしまった、いわば被害者なんだぞ!」

なんで心を読まれてる俺が極悪人みたく言われなきゃならないんだ…。

「貴様らは心を読まれる側の苦しみがわからないのか」

「別に、あたし読まれたことないもん」

「俺もない」

「………」

こいつらと話をしても無駄な気がしてきた。

「畜生…。名雪、そのうちお前の部屋の床をトランポリンみたくぼよんぼよんにする式神使えるようになってやるからな、覚えてろよ!」

「それはむしろうれしいよ、祐一」(いい笑顔)

「相沢、水瀬さんに普通の意見を求めちゃダメだと思うぞ」

北川が俺の肩をポンとたたきつつ言う。

「じゃあケロピーをそこはかとなく修羅場くぐってそうな雰囲気にする式神使ってやる」

「どんな式神よ。そしてどんなケロピーよ」

香里は思いっきり俺につっかかってくる。やはりさすがの俺でも1対3では分が悪い。

しかしそこで俺の敵だか味方だかわからない北川が、またもや愉快なことを思いついた。

「あ、でも床がトランポリンみたくぼよぼよしてたらスカートのときは大変だよな」

「なるほど。それは発案者の俺でも気がつかなかったぞ」

こいつもなかなか浪漫を感じさせることを思いつくものだ。

(浪漫といっても漢の野望(ザイカ氏)とは別なので、そこのところはあまり触れないでいただきたい)

想像してみると、ちょっと見えそうで見えないというようなチラリズムが台頭する世界が広がる。

そしてまた、そういうことを抜きにしても俺自身トランポリンで遊んでみたい気もしてきた。

「着替えるときも床がぼよぼよしてるから結構な労力だしな」

「着替えるのも大変だぼよぼよ」

「そうだぼよ」

「北川ぼよ」

「おう!ぼよ」

「いい発想してるぼよ」

「ありがとぼよ」

「あなた達、勝手に暴走しないでよ」

「「ぼよよ?」」←ハモってる

がこっ。がこっ。

「っつー……痛いよ、美坂」

「何も俺らの頭つかんで、机の角にうちつけなくても…」

すっごく痛い。角は痛いんだ。本当に痛いんだ。涙出てきた。あぅ。あ、思わず真琴みたくなっちゃったよ…。

「目から星が出るかと思った…」

「でも…どうせ目から出るんなら怪光線の方がいいよな…」

「ああ…敵を貫通するやつとかな…」

北川も涙目のまま答えた。やっぱりみんな角は痛いらしい。痛いよね。

「じゃあ出るかどうか、あと5〜6回実験してみる?」

「遠慮します…」

「同じく…」

俺は頭をさすりつつ、さっきから会話に加わっていない名雪を見た。

すると、

「ぼよ?」

伝染していた。

「……名雪…、さっきまでの暗い影はどうしたの…?」

「え?別に、祐一のこと本気で責めたりしないぼよ〜」

「とりあえずその”ぼよ”はやめなさい」

「うん」

名雪は素直だ。

「ちょっと出来心で、祐一をいじめたらどうなるかなって思っただけ。大丈夫、本気で学校から追放したりしないよ」

素直だ………。

「なんだ、良かったわね」

「いとこに学校追放されたりしたら笑えないもんな。出来心でいじめられただけなら良かったよじゃないか」

「俺は名雪の発言を聞いても全く喜ばしく思えないのだが、何故だ?」

「気のせいだよ、ね。祐一。式神使えるようになったら私の部屋トランポリンしていいから。あと祐一も私の部屋に入っていいから」

「喜ばしい」

俺は大変喜ばしいことだと心から思えた。

「でもいいの?そんな変な約束しちゃって」

俺がいろんな妄想やら空想やら2次元やら4次元やらに意識をとばしていると、香里が心配そうに名雪に言う。

「え?式神なんてないんでしょ?」

「だって、相沢君よ?名雪が一番わかってるじゃない」

「あいつこういうとき不可能を可能にしかねないからな…」

「……でも、もしそうなったらそのときは、祐一だし、いいかな…なんて〜」

「ちょっ、名雪、親族は3親等までは…、あ、いとこは4親等だからギリギリOKね」

「美坂、俺がつっこむのもナンだけど、ちょっと論点が違うぞ」

「うるさいわね、わかってるわよ」

「だって、祐一だから……だお」

コンコン。←ドアたたいてる音

「すいませーん、祐一さーん。いますかーぁ?」

教室の後ろの方から聞き覚えのある声がして、俺の意識は15次元空間から戻った。

「ん?あ、佐祐理さん。…あ、昼飯忘れてたっ!」

「祐一さんの分も残ってるから早く来てください〜。先行ってますよ〜」

佐祐理さんが手をひらひらとさせて去っていく。

「あ、わりぃ、昼飯食ってくる。じゃ、そういうことで〜See you later!」

俺は三人にそう言い残して廊下へ出ていった。

 

 

 

「香里、祐一の部屋で、祐一が入ると同時に血の惨劇が起こる式神ってない?」

「うーん、じゃ、放課後にいちごサンデーでも食べながら考えようか」

「うん♪」

「……俺、知ーらねっ…」

 

 

そんなことはつゆ知らず、俺は楽しい昼食のときを過ごしていた。

 

 

 

終……

 

 

 

コメント:

祐一・北川・名雪・香里の四人組SSってどうにでもなるから書くの楽しいなぁ、って思ってる音速秘書です。

今回は、古文のワークをやっていたら安倍晴明の話があったのでこの話を思いつきました。(本当)

なんか回を経るごとに名雪がどんどん怖くなっていきますね。

何故なんでしょう?

必然っていえば必然だし、ほら、やっぱ書いてるのが私だから。

名雪のファンは怒らないでね、あはは。

ってなところで、音速秘書でした。

また今度。

次回は舞と佐祐理さんの話かな?自分でも何を書くのかわからないや。


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