あたしは美坂香里。

ごく普通の女子高生。

かわいい妹がいて、友達がいて、毎日を平凡に過ごしてる。

試験ではたまに学年一位をとったりもするけど、別にあたしは優等生面してるつもりはない。

だって、あたしは勉強に命をかけていないもの。

今のあたし……

今を生きているあたしが……

命を……かけるもの……。

それは……。

……。

 

 

「それでは参りましょう!今日の四字熟語コーナー!」

「イエー!」

「司会はもちろんこの私、相沢祐一です」

「オホー!」

「さて北川さん(ペンネーム)、今日の四字熟語は?!」

「さらば地球よ」

「熟語?」

 

 

そう……

 

 

ツッコミよ♪

 

 


学年一位の女 〜前編〜

香里をダメにした(書いた)張本人:音速秘書


 

そもそもあたしがツッコミを楽しいと思い始めたのは、名雪の従兄弟にして妙な個性をもつ転校生の相沢君と、彼とすごくウマのあう在校生の北川君、この二人が謎の会話をするようになってから。

自分達でわかってるんだかわかってないんだか、それすらも不明な会話をしていて、あたしは呆れながら二人にツッコミを入れていた。

いや、正確には謎な点を指摘してただけなんだけど。

それがいつの間にか、虎視眈々とツッコミどころを探すようになっていた。

つっこもうと思えばどこでもつっこめる。だけど、一番いいところでずばっと斬り込むような、鋭いツッコミをするのがあたしの幸せ。

学年一位の女として、ツッコミですべるなんて失敗は許されない。そう、自分に課してきた。

ともかく、そうして過ごせる毎日が楽しい。

最初は相沢君と北川君がやってることがバカらしかったけど、あたしも関わってみて、こんなに面白いんだって、思った。

でもツッコミが大好きだということはまだ誰にも知られてないの。最愛の妹、栞にさえ。

だからお笑い関係のビデオを借りるときは誰にも見つからないように、変装をして、見るときも誰もいないときにしか見ない。

だってほら、あたしのイメージが、ね?

 

 

「はっはっは」←大バカその1(祐一)

「ほっほっほ」←大バカその2(北川)

休み時間になって、また、二人の謎会話がはじまった。

「いやー、納豆のおいしい季節になりましたな、はっはっは」

と、どーでもいいネタフリをするのは相沢君。

「全くですなぁ、ほっほっほ」

本当に納豆のおいしい季節があると思っているのかいないのか(酷い)、ともかく答える北川君。

「私なんか毎食10パック食べてますよ、はっはっは」

あたしはまだ名雪と一緒にあまり興味なさそうに見てるだけ。

ここはつっこむところじゃない。

名雪が、また変なこと言ってる……ってつぶやいてるのに対してあたしは適当にうなずく。

「そうですか、私もご飯茶碗にまず納豆を盛って、その上にちょこっとご飯をのせるくらい食べてますよ、ほっほっほ」

「それではどちらが主食かわかりませんな、はっはっは」

「全くです、ほっほっほ」

いつものことだけど、ほんと、不毛な会話……。

「そういえば最近、納豆の食べ過ぎで体が糸ひくんですよ」

「それはいけませんな」

「ですから、先日、眼科に行ってきました

……!

「っ……」

…いや、まだここじゃない。ここでつっこんだら、ツッコミが成立しても二人の会話が中途半端になってしまう。

焦っちゃダメよ、香里。

「ほー、それで、治りましたか」

「ええ」

「治らないわ」

「……」

「……」

…しまった。

早すぎた。

つい、つっこんじゃった…。

焦って少し声もうわずっちゃったし、最悪……。

「そーだよ祐一。納豆食べすぎて糸ひいちゃったって、いーとーまきまきいーとーまきまき♪じゃないんだから」

「名雪も意味不明よ…」

「……」

ああっ、また!

だいたい名雪をツッコミの対象にしてどうするの、あたし!

普通に意味がわからなかったけど、あまりにもわかりやすい低レベルなツッコミ……。それに元々、名雪は天然なんだから……。

「で、実は治りませんで、現在でも糸引き人間なのですが」

「お、おお、まさしくネバリストですか」(ねばつく人?)

「ははは」

「ほほほ」

相沢君がなんとか話を戻してくれる。ちょっと調子狂ったようだったけどそれに次いで北川君も会話を再開してくれた。

「しかし、私も納豆の食べ過ぎで少し面白いことになりました」

「ほお、なんですかな」

「口から糸を吐けるようになりました」

「蜘蛛みたいですな」

相沢君がすかさずボケツッコミをした。

アドリブで会話をすすめながらこんなツッコミができるのは相沢君ぐらいのものだと思う。

つい、感心してしまった。

「ははは、実はこれのおかげで職を得ることができたのですよ」

「ほぉ?職、ですか」

「綿あめ売りです」

「一種の詐欺ですな」

…………。

「まあ、そうなんですが、甘味料を混ぜると意外とわからないものですよ」

「そういうものですか」

「はい」

なんかこれから先、綿あめがイヤなものに見えてきそう…。

「納豆から綿あめができるとは、日々の納豆愛好の賜ですな」

「あれは納豆好きで良かったと思える瞬間ですよ」

「バカヤロー!」

ぶしっ!

「ぶぐぇーーー」

突如相沢君が北川君に右フックをたたきいれるフリをし、北川君は変な顔でふっとぶフリをした。”ぶしっ!”は相沢君が自分で入れた効果音。

あたしも少し展開がわからなくなってきたけど、とりあえず名雪にはもはやついていけない領域と化していた。その証拠に名雪は口をぽかんと開けている。

「貴様、人をだましておいて何が『良かったと思える瞬間』だ!人はだますな、助け合え!」

「ですが、こんな汚れた世の中で一体助け合う意義はあるのですか?!」

「バカバカヤロー!」

どぶしっ!!

「ほぐぁーーー」

……とてつもなくマヌケだけど、彼らは真剣(にバカをやってる)みたい。

「納豆が信じられて人が信じられないと、貴様は抜かすのか!」

「……」

「よく聞くんだ」

「…」

相沢君は今度は諭すような口調で言い始めた。

「納豆は、この、おおいなる大地がつくった…」

「ええ…」

「そして……人がつくった…」

「……!」

「わかるか?」

「……」

「納豆が信じられるなら、人も信じられるはずだ」

「…はい!」

「それじゃ信じられるのは納豆農家だけね」

「しまった!」

「相沢?!」

やった!!やったわ香里!ツッコミ成功よ!バームクーヘン最高!(壊れ気味)

二人がわかりやすくボケたところはちょっと失敗したけど、二人とも予想だにしてなかったツッコミどころを、あたしは見事突いてみせたわ。

ツッコミによって面白くするのも大切だけど、予想外のところをつっこむのがあたしの学年一位としてのプライド。

予想外かどうかは彼らが黙ってしまうか、思わず”しまった!”とか”なんだって?!”とか、ともかく驚きを見せたかでわかる。

きっと本当ならこのまま『以上、納豆はすごいコーナーでした』とか言って終わるつもりだったんだろう。

「そうか、信じられるのは納豆農家だけだったのか…」

「そうなるとやはり納豆が偉大な食品ということになりますね」

「ああ、納豆は偉大な食品ですな」

「これを偉大と言わずして何を偉大と言おう、ですね」

「全くその通りですな」

 

「ほっほっほ」

「はっはっは」

「ほっほっほ…」

「はっはっは…」

「ほっほっほ……」

「はっはっは……」

「…………」

「……」

 

二人は悲しそうに廊下へとフェードアウトしていった。

「二人とも、どっか行っちゃったね……」

「ええ……。いつもみたくさっぱり終われなくなったみたいね」

「香里がつっこむからだよー」

「だって変なことばっかり言ってるんだもの」

本当はずっとねらってたんだけど。

「香里って、普通気付かないところに気付くよねー」

「そう?」

なんて言ってみせるけど、本当は声を大にして、そう!と言いたい。

 

きーんこーんかーんこーーーーーーー。

ん。

 

「あ、予鈴。次の時間は数学よね」

「うん、数学だおー」

二人はショックだったのか、数学の時間は姿を現さなかった。

 

 

 

「じゃあね香里。また明日だよー」

「ええ、じゃーね、名雪」

放課後、名雪は部活のためすぐに教室を出ていった。

「美坂、明日は負けないからな」

あのあと二人は数学の授業後に戻ってきた。

ショックでいなくなったかと思ったら、ただのサボりだったことも判明した。

「え?何のこと?」

北川君はもちろん、つっこまれて辛い状況に陥ってしまったことを言っているんだろう。

でも、あたしは表面上では”呆れてツッコミをしているだけ”なので、わかってないフリをするのがベター。

「明日は絶対、ツッコミどころのない完璧なボケをしてやるぜ!」

「それはボケとして正しいの?」

「!」

「……言ったそばからつっこまれてどーすんだよ、北川」

北川君はある種の天然なのかもしれないと思う。

「だいたいあたしはツッコミたくてやってるワケじゃないんだから、できるならつっこめないボケをつくって欲しいわ」

前者はウソだけど、後者は本当の気持ち。

よりツッコミにくいのをつっこむのがカイカンだから。

あら、ちょっと卑猥な表現に聞こえなくもないけど、まあいいわ。

「そんじゃ香里。また明日なー」

「お、相沢。待ってくれよ」

相沢君はあたしに挑戦する態度を少しも見せることなく教室を出ていく。

彼はやっぱり強敵ね。

「ふふ……だけどあなたもいずれ、ツッコミの魔術師かおりんの前にひれ伏すのよ……」

いいの、ネーミングセンスのないことは自覚してるの……。

勝負は内容よ。

 

 

「春真っ盛りねっ」

……違う。

「春が来たのね」

…んー、違う。

「春巻き!」

……違う違う、何言ってるの、あたし。

えっと、えっと、

「春なのね…」

あ、これがしっくりくる♪

うん、呆れたような顔をして言うのはこれが一番合う。

「ふぅ…」

もう教室には誰も残っていない。今は今日の納豆漫才をあたしなりに別バージョンをつくってシミュレーションをしているところだった。

本当なら家に帰って自分の部屋でやりたいんだけど、家に帰ったら帰ったで栞とあんなことやこんなことをしたくなっちゃいそうだから、今ここでツッコミの練習は済ませておきたい。

「で、えーっと……」

あたしが二人をとまどわせたところであえてつっこまないで話がすすんでいたら、最後のところでどうつっこめたかというシミュレーションだったわね。

 

「納豆が信じられるなら、人も信じられるはずだ」

「…はい!」

と、ここでつっこまないと、

「やはり納豆が偉大な食品ということだな」

「はい、納豆は偉大な食品です」

「これを偉大と言わずして何を偉大と言おうか」

「全くその通りです!」

 

と、こう話が進むはず。

そうすると、二人もフェードアウトすることなく笑いを始める。

 

「はっはっは」

「ほっほっほ」

「はっはっはー」

「ほっほっほー」

「はっはっはーー」

「ほっほっほーー」

 

と、だんだん笑いが大きくなるとする。

そして、多分、二人はここでバーストしておばかになるはずだから、

 

「「あはははははーー」」

「春なのね…」

 

と、なる。

これは、春はぽかぽか陽気にやられて変質者が増えたり、ダメになっちゃった人が急増するけど、ご他聞に漏れずダメになった人がここにもいるわ、ということを暗に示している呆れツッコミ。

でも、実際やってみたらちょっとわかりにくいかしら。

『うん、暖かいよー』

なんて、名雪が普通に返事してきちゃいそう。

「でも、頭大丈夫?とかはいつも言ってるし、ここで言うと当たり前すぎて面白くないし」

難しい……。

そうすると、他には……、

「春爛漫!」

これじゃ春巻きと変わらないか……。あたしまでボケてるみたい…。

でも一度くらい、今までやったきた高度な呆れツッコミじゃなくて、派手に「なんでやねん!」みたいなツッコミもやってみたいな。

相方がボケて、この、手の甲でシュバッと、ツッコミを入れながら、「なんでやねん!」。

……ちょっとやってみようかしら。

どうせ誰もいないし。

あたしは席を立って、すぅっと深呼吸をして……

 

「なんでやねん!」

シュバッ!

 

……。(悦)

…………き、気持ちいいかも。

もう一回、

 

「なんでやねん!」

シュババッ!

 

…思わず手の甲で二段ツッコミしちゃった♪

もう一回、これで最後、

 

「なんでやねーーん!」

シュバババッ!

「か、香里?!」

「相沢君?」

完全にあたしの不注意だった。

後ろを振り返るとそこにはカバンを床に落とした相沢君があたしを驚きの表情で見ていた。

”ああ、相沢君……見たのね……そう、見ちゃったのね”

さよなら。あたしの輝ける青春。

続く

 

 

コメント:

どうも、音速秘書です。

前後編の前編です。しかも香里視点のSS。

なんだか半端なところで終わってるし、内容もどうかなぁと思うしで頭痛いです。

でも香里って、普段こんなこと考えてたんですね!(違う)

以上、電車にのってるときはいつも寝ている音速秘書でした。

また今度。


戻る まな板の上で栞が暴れている! 「こんなことする人、非常識です」 わかってんじゃん。