「なんでやねーーん!」

シュバババッ!

「か、香里?!」

「相沢君?!」

完全にあたしの不注意だった。

後ろを振り返るとそこにはカバンを床に落とした相沢君があたしを驚きの表情で見ていてあたしはその驚いた相沢君を見てツッコミのポーズのまま動けなくて時間が止まったような感覚に襲われてそれでそれでもうあたしは終わりだとかあたしのイメージは崩壊の一途をたどるのねとかそんなことが頭の中をぐるぐるとめまぐるしくまわってて、

 


学年一位の女 〜後編〜

 


 

 

「香里……」

「な、何?」

「それはツッコミの練習だな」

それは誰からみても明らかだった。だって、右手をシュバッとやったままの状態だから。声だって、相当大きかったはず。

でも少しひきつっているのを自覚しながらも今できる限りの笑顔をつくってなんとか話をそらそうと試みる。

「あ、あらやだ違うのよ。エレベーターガールよ、エレベーターガール。『上へまいりまーす♪』なんちゃってー」

「俺はだまされん」

最悪。

「あ、相沢君にはこれがツッコミの練習に見えるの?」

逆に強気に出てみる。

「ねぇ、どっちかっていうと、真上に手を挙げることすらできずやや右斜めに手を挙げちゃってる今時珍しい少し気弱な女子高生に見えたりしない?」

「するものか」

ほんと、最悪。

「……最近香里のツッコミが鋭くなってきたと思ったが、まさか学校で練習をしていたとはな」

「う……」

相沢君は落としたカバンを拾い上げ、自分の席に置く。

「そ、そういう相沢君は何しにきたのよ」

「俺は忘れ物をしてとりにきただけだ。ほれ、このノート」

そういって机の中から一冊のノートをとりだして、あたしに見せた。

「はー、驚いたな。今日は俺も意表突かれてうまくシメられなかったが、それは日々の特訓の成果だったワケだ」

彼はノートをカバンに入れ、大げさにため息をつきながらうなずく。

「いやいや、衝撃だ」

「…………」

もう、誤魔化すことはできない。

「……うう、相沢君、お願い!このこと、誰にも言わないで!」

あたしは相沢君に駆け寄り、目の前で手を合わせて頭を下げた。

「ね、相沢君!」

「えー?いっちゃダメなのか〜?」

「だって、まだ栞にも知られてないのよ!」

あたしが、”栞にも知られてない”とか、栞を基準にすることは、”他の誰かなんて論外”ということを意味する。

「…う、そ、そうなのか」

それは相沢君にも伝わったみたい。

「しかしタダで黙ってるなんて、俺にはできそーにないんだよな」

外道。

「あたしにどうしろって言うの」

あたしがそういうと、相沢君は

「ふっ、男が女の弱みをにぎって強要する物事ったら、アレしかないだろう」

「……なっ!」

「わかるよな?」

「………」

そういって相沢君はあたしの肩に手を置き、にやにやと笑みを浮かべながら

「香里、まずは上着を脱……」

めきっ。

「あなた変なモノに影響されすぎよ」

いくら弱みをにぎられたからって、そんなことできるワケない。それに、弱みの種類にもよる。

「……つー…、冗談だっつーのに本気で右ストレートいれなくてもいいだろ…」

「冗談の目にみえなかったわ」

「当たり前だ。こっちゃ毎日いろんなキャラになりきる練習してんだからな。まあ、俺の場合、”名雪も知ってる”ってやつだが」

”名雪も知ってる”はクラス内の隠語で”誰でも知ってる”という意味だ。情報に疎い名雪でさえ知ってることは誰でも知ってるって、相沢君が言い出して広まった。

ちなみに当の名雪は、その隠語を知らない。

「ま、俺の演技にだまされたみたいでちょっとうれしかったから、殴ったことはいい。で、そーだな……」

相沢君はあごに手をあててあたしに何をやらせるか考え始めた。

待ってるこっちは気が気じゃない。

「ふむ、ベタだがそれでいくか」

何かを思いついたらしく、こっちを見て、ほくそ笑んだ。

あたしの未来が彼の思いつきにかかっているかと思うと、絶望すら覚えそうだった。

「明日一日、つっこまず、怒らず、文句たれずに話の流れに乗れ」

「話の流れにのる?」

「ああ、もし誰かに”かおりんりん♪”と呼ばれたら、どうする?」

「誰がかおりんりんよ、って言うわね」

「そこで怒らずに”は〜い、かおりんりんでっす♪”と答えなければならないワケだな」

「……なるほど、明日相沢君があたしのことをどう呼ぶのか見当はついたわ」

「まあ話の流れにのるといっても、鼻からうどんを出し大会開催とか、俺でもできないことは言ったりしねーから安心しろ」

相沢君はそこでまたにやっと笑みを浮かべる。

「ほんとにそれだけでいいのね?」

信用できるかできないかは別として一応念を押す。

「それだけでいい」

「そう……?『空中二段ジャンプをしろ』とか『珍発明をしろ』とか付け足すのかと思ったけど」

「んなこと言わねぇよ…」

「終わったあとに、『じゃあ明日は〜〜だ』とかも言わない?」

「そんなくだらんことはしない」

「神に誓う?」

「悪いが俺は無神論者だ」

「でも奇跡は?信じるんじゃないの?」

「奇跡はイヤっていうほど見てきたから信じるが、神とかそんなんじゃなくて人的要因によって引き起こされるものだと俺は思ってる」

やたらと真面目な返答で少し驚く。

「わかった。じゃあ、ともかく何かに誓って」

「手も長い足長おじさんに誓って」

「何者よ」

相沢君は神妙な顔のままそう言い、あたしの頭の中に全体的にでかいだけのオジサン像が浮かぶ。

さっきまでの真面目ぶりはこのギャップを演出するための”フリ”だったらしい。

「じゃあ実体の掴めない料理上手叔母さんに誓って」

「……はっきりとは言えないけど、誰のことだかはだいたいわかった。いいわ、その人に誓って」

「天にまします我が叔母よ、拙者は美坂香里を一日だけ奴隷のようにこきつかって楽しむだけ楽しんだら次の日からはきれいさっぱりさわやか高校生に戻ることを誓います!」

「……なんか非常に釈然としないものを感じるわね」

あたしをバカにしてることもさることながら、相沢君にとって叔母さんは”天”の存在だというのが気になる。確かに相沢君や名雪からときどき話は聞くけど、そこまでなんだろうか。

「ほら誓ったぞ。いくらなんでもあの人を裏切るような自殺行為はできないから安心しろ」

やっぱり気になる……。

気になるけど、今日はその問題はおいておく。

「信用するからね……。もしやぶったらグーでパンチよ、グーでパンチ」

そういってあたしは冗談半分に威嚇するためにふりかぶる……

「それはチョップの構えだ」

「?!」

……どうやらさっきのツッコミの練習で癖がついちゃったみたい。

「う……ともかく、約束は守ってよね!」

「はいはい、そんじゃまた明日」

相沢君はカバンを肩にひっかけ、ひらひらと手をふって教室を出ていった。

 

「……」

そ、そうだ、早く帰って栞の顔を見なくちゃ。

いったんそう思ったら止まらなくなってきて、あたしは音速で家路についた。

 

 

「おはよー香里」

「おはよう名雪」

いつも通り、走ってきたんだろう。校舎の昇降口で名雪に会う。

花のにおいをかすかに運ぶ春風が気持ちのいい朝。

「よぉ、かおりんりん。おはよう」

いい朝はあっさりと終止符がうたれた。

「……おはよう」

ヤな朝だ。

「元気ねぇな、かおりんりん。もっと陽気にいこうぜ」

「あたしはいつも陽気よ。かおりんりんパワー♪なーんちゃって♪」

何がなんちゃってなのか、自分につっこみたくなる。

「かおりんりん……って」

名雪が怪訝な顔をして聞いてくる。無理もない。

「何言ってるんだ、名雪。香里って名前はかおりんりんの省略なんだぞ。だから本当の名前はかおりんりんなんだ」

「そっ……、そう、そうなのよ」

危うく『そんなアホみたいな本名だったらさっさと改名してるわよ!』なんて話の流れを壊すところだった。朝一番でアウトになってはたまらない。

「…香里?いつもならここで何か反論するのに、今日はどうしたの?」

こういうときに限って細かいところに気付くあたしの親友。うれしいけど今日は気付いて欲しくなかったわ……。

「韓信の股くぐりってあったでしょ?あれと同じことよ」

「全然わからないけど、わかったよ〜」

本当は使いどころを明らかに間違っているのだが、とりあえず難しいことを言えば納得してしまう。いかにも名雪らしい。

「ところで相沢君は病気?」

「いや、陽気だ。アイザワンワンパワー♪」

完全にあたしのことを馬鹿にしている。でも、反射的に反撃したらその時点で負けだ。

「馬鹿と天才は紙一重っていうけど、陽気と病気も紙一重みたいね」

あくまで話の腰を折らず、落ち着いたまま言う。

「なんだか不機嫌だぞ、かおりんりん」

「そうでもないわよ♪」

「ふーん」

「ただ相沢君が後頭部を強打して記憶喪失になってないかな、って」

にこにこと、あてつけの笑顔を向けながら言ってやる。

「安心しろ。俺は昨日までの記憶を失ったりしてはいない」

相沢君もさわやかな笑顔で答えた。

話の内容さえ聞こえなければあたし達は恋人同士の会話に見えるだろう。

「……二人とも、今日は何かヘン…」

隣でしっかり会話内容を聞いていた名雪は、その異様さに少し恐怖していた。

「いや、俺達はいたって普通だ。なあ、かおりんりん?」

相沢君が目で合図する。

「ほら、かおりんりんの大好きな募金箱だぞ」

そういって、昇降口付近に常時設置されている募金箱を指さす。

行けってことね…。

「きゃー、募金箱♪かおりんりん、1000円募金しちゃう♪」

あたしはこの上なくバカっぽく喜びながら募金箱に抱きつき、財布から本当に1000円札をとりだして募金した。

「……か、香里?」

名雪が呆然とあたしを見る。

「あ、早くしないと、もう時間ないわよ」

深く追求されないように、話をそらした。

「う、うん!」

名雪に顔をみられないようにしながら教室へと走った。

顔で笑って心で泣いて。

そんな言葉が今のあたしにぴったり。

 

 

「なあ相沢、聞いていいか?」

「なんだ、北川。何か悩みでもあるのか?」

休み時間、授業を見事に夢の中で過ごしきった北川君が起きて相沢君の方をふりかえる。

「そうだ」

「言ってみろ」

「中国に行きたい」

「んなことは旅行代理店に相談しろ」

きっと北川君は中国に関する夢をみて、最終的に”中国万歳!”みたいな結論に達したんだろう。

「……」

「…」

「あ、もう一つ聞いてほしいことが」

「なんだよ、言ってみろ言ってみろ」

「聞いてみろ聞いてみろ」

「……」

「……」

北川君は表情を”俺、難問を抱えてるよ!”といわんばかりの緊張したものにかえて相沢君に尋ねる。

「マヨネーズってマヨネーの複数形?もしくはチーム名?愉快なマヨネー家?」

「知るか。俺は英語に疎いんだ

「えいっ……」

「ん?なんだ?」

「いえ、な、なんでもないわ」

……ふう、あぶない。

思わず『英語は関係ないと思うわ』とつっこむところだった。

「なぁかおりんりん、マヨネーズ?」

相沢君はワケのわからない質問をしてくる。

「かおりんりん?お前昨日まで美坂のことそんな風に呼んでたっけ?」

あたしが答える先に北川君が口を挟む。

「呼んでたぞ。お前、記憶障害じゃないか?」

「あれー、そうだっけ。記憶障害かなぁ」

記憶障害かなぁ、とへらへらしている北川君は別の意味ですごい。

「北川は今日の朝何食べてきた?」

「日替わりランチ」

「よし大丈夫だ」

「!きおっ……」

あたしはあわてて口をつぐむ。

つい、『記憶障害とは別のところで問題よ』とつっこみそうになった。

「かおりんりん?どうした?」

”どうした?”なんて、しらじらしいことこの上なし……。

「いいえ、何でもないわ」

「で、マヨネーズの由来だっけか。教えてくれ」

もちろん相沢君はそんなことあたしが知らないのを前提として聞いてきているに違いない。

話の流れにのるという趣旨からすれば違うんだろうけど、『わからない』と答えたらアウトだぜ、と彼の笑みが言っている。

ふふ……だったら答えてやるわよ。

全部デタラメで。

「マヨネーズはね、ヨーロッパのルネサンス期に絵画の世界でマヨネズムっていう主義があって、卵と油を混ぜたモノで絵を描いてたの。どういうわけか卵みたいな形の頭をした人が多かったらしいけど、まあそれはおいといて、その人達はいつしか『マヨネザー』と呼ばれるようになった。そしてマヨネザー達の絵は絵画では価値が低いとされていたの。そのうち『絵が売れないなら食っちまえ!べらんめー!』と半ばヤケになって絵ごと食べちゃったのね。そしたらそれがまろやかテイストでびっくり。『今度は卵にこだわってみよう』とか『味付けにこってみよう』とか、いろいろやって、他の食物にもつけて食べるようになった。これがマヨネーズの原型よ」

なんか腹立つから一度に言ってやった。

「ほー」

「そうなんだー、香里って物知りだね」

「でも美坂。日本にはどうやって伝わったんだ?」

名雪も北川君もあたしのデタラメを真にうけてしまったらしい。

気付いてよ、こんな明らかなデタラメぐらい…。

「日本にはね、フランシスコザビエルがキリスト教とともに伝えたのよ。そのマヨネーズの原型が伝わってそのとき日本式発音で『マヨネーズ』っていう風に広まったの。踏み絵ってあったでしょ?実は踏みマヨっていうのもあったらしいわ」

何いってんだろ、あたし…。

自分が情けなくなってきた……。

「ふ、踏みマヨ……。あの、ぐにゃっとしたのを足の裏でじかに感じるの……?」

「おそろしやーーー!」

「ま、以上がマヨネーズの由来ね」

二人は完全に信じ切っている。

「相沢君もわかった?」

「違うぞかおりんりん」

相沢君はむすっとした表情のままそう言った。

「一カ所だけウソをついてるだろ」

「は?」

おかしい……相沢君の反応をみている限り、全部デタラメだとわかっているはず。

「……一カ所…?」

全部ウソなのに、さらにウソを言うのは難しい。

ということは、本当の難題はこっちか……。

まずいわ……一気に言ったから、自分で何を言ったかほとんど覚えてない。

覚えてるのは、フランシスコザビエルぐらいしかない…。

「なんだよ美坂、ウソつくなんて酷いなー」

「ちゃんと教えてよ、香里」

……うっさいわよ、そこの二人。最初からウソなんだから信じないでよ、全く。

えっと、えっと、何か……。

「ザビエルはロンゲだったのよ!」

「なんだって?!」

「そ、そうだったんだ…」

……ザビエルの髪の毛について触れた覚えはなかったけど、話題のインパクトによってそのへんはうまくごまかせたみたい。

「そうよね、相沢君?」

「あ、ああ、そうだな……」

ちっ、惜しかった、という相沢君のつぶやきが聞こえた。

丁度チャイムも鳴り、どうにかこうにか、話の流れにのったままいられた。

 

 

そして放課後。

あのあと相沢君はあたしにからんでくることもなく、このまま一日が終わるのなら大した条件でもなかったな、と思いつつ帰りの支度をしていた。

「あー、腹減った」

「おう、オレも腹減った」

「これでは帰る前に飢え死ぬ」

「カロリー不足からくる体温の低下により凍え死ぬ」

「というわけで芋食うか?」

「食う」

「ほくほく芋だぜ」

「すげぇ!」

……こういう会話はまともに聞いてると頭痛がしてくる。

でも、芋、あたしも食べたいな。

「じゃあまず金平糖とマキビシの違いを述べよ」

「どちらも見た目は似ていて非常に間違いやすいのが難点ですが、金平糖はおいしく、マキビシは食すと危険です」

「正解!芋贈呈!」

「やったぜ!」

北川君は右手でピースをやりながら右手で受け取ろうとする。

「北川よ、お前は二本指で芋を受け取る気か」

「指にさせば問題ない」

「なるほどな」

相沢君は立てた指に芋をさそうとした。

ぐきっ。

「痛いーー!指が変な方向にーーー!」

どうやら無理だったらしい。

あたしは帰り支度を終え、帰ろうかと思いながらも特に会話に加わらず見ていたら名雪が側にやってきて小声で言った。

「…ねぇ香里、あの二人、またよくわからないことやってるけど、私もう部活だから行くね」

ふと気付いて教室を見回してみればあたし達以外誰も残っていなかった。授業の後眠いからって名雪と一緒になってしばらくぼーっとしてたせいもあるんだろう。

「そう。じゃあまた明日ね」

「香里が見てる間だけでいいから、私が祐一のいとこであることをやめたくなるような事をし出したら止めてあげて」

名雪ってなにげに毒を吐くのよね……。

「わかったわ、名雪は心おきなく部活に行ってらっしゃい」

「うん、ありがとう香里。また明日だお」

名雪は一つため息をついてから教室を出ていった。

「むぅ……ならば薬指をプラスして3本指だ!」

「よし、いくぞ北川」

ぐきっ。

「痛いーー!薬指を足すと逆に中指一本で受け止めるという結末にーー!」

馬鹿。

やる前に想像すればすぐわかることじゃないの…。

もう、そんなもったいないことするんだったらあたしに芋くれないかしら…。

「仕方ない、普通に受け取る」

「うむ、それがよかろう」

観念したのか、北川君は普通に芋を受け取って食べ始めた。

「ところでかおりんりん。もう誰も残ってないのにかおりんりんは帰らずに俺らを見ているが、芋が食べたいのか?」

「え?あたし?」

突然こっちを振り向いて聞いてきたので、少しびくっとなった。

というか、こんなやりとり見てないで声かけられる前にさっさと帰れば良かったと思った。

「えっと、そうね、食べたいわ♪」

ここで拒否はできない。

「そうか、食べたいか」

「ええ」

まあ、あたしはもともと栞と芋を選べと言われたら悩んじゃうぐらい芋が好きだし、見ていて食べたいなぁと思っていたところなのでくれるならいいか、と思う。ほら、どことなく字も似てるし。(関係ない)

「かおりんりんはどこぞのうぐぅ娘が鯛焼き好きなのと同じレベルで焼き芋が好きか」

「そうね」

うぐぅ娘が誰のことだかは知らないけど、黙っておく。

そしたら、彼はあたしに向かってこういった。

「ならば俺は今からこの芋を投げる」

彼はわっはっはとバカそうに笑った。北川君は芋を食べるのに夢中で聞いちゃいないのは明白だったが、相沢君が笑ってるのを見てなんとなくつられて笑ったようだ。

「なんですって?芋を、投げる?」

「そうだ。階段の踊り場の上の方から投げ、かおりんりんはそれを下で受け止めるんだ」

「ちょっと相沢君、芋で遊ぶなんて非常識よ」

というかごちゃごちゃ言ってないで芋をあたしにくれなさいよ。

「ギリギリ常識許容範囲じゃないか?」

「あなたは芋をなんだと思ってるのよ!」

「芋」

「そんなの当たり前じゃない!」

「いや、当たり前って、かおりんりんが聞いてきたんだろ……」

「うるさいわよ!」

食べ物を粗末にするなんて酷い。まして、あたしの大好きな芋なのだ。許されるワケがない。

本気で腹が立ってきた。

「……と、ともかく投げるぞ!北川は芋食ってろ〜」

「ほぐ」(おう、と返事したつもりらしい)

「ちょっと、待ちなさいっ」

相沢君は教室を出、廊下を猛ダッシュした。あたしも走って階段の踊り場についたとき、すでに相沢君は上にいた。

「ふう……まだ、息が…」

しかし彼は、

ひゅーー、ぼとり……。

芋を投げ、それは受け止められることなく転がった。

「!!」

「ふぅ、ざんねんざんねん。かおりんりん、キャッチをしっぱいも(失敗+芋?)」←すごくうれしそう

「芋……!」

どかっ!!がたたーん。

あたしは階段を駆け上がって相沢君をとりあえずタックルでふっとばしてからまた階段を降りて芋のところにしゃがみこむ。

「い……いてぇ……何しやがる、かおりん」

そういうのでちらりと目をやると、彼は壁にぶつかったのか、後頭部をさすっている。

「何しやがるじゃないわよ!ねぇ、サツマイモよ、ジャガイモじゃないのよ?!あなたわかってるの?!」

「いくら俺でもわかってるってよ……」

「ああ、もう、食べる!!皮むけば食べられるわ!」

「っ!香里、それだけはやめろ!」

「とめないで相沢君!」

「同じクラスメイトとしてそれはやめてくれっ!絶対誰にもツッコミの練習のこと言わない!だから!」

「芋!もとい否!」

「お前はパンドラの箱を開ける気か!」

「芋の皮をむくだけよ!」

「例えだ例え!俺が言いたいことくらいニュアンスでわかれ、ばかおりん!」(馬鹿+かおりん?)

「ふん、ばかおりんで結構!」

「あ゛ー!こうなりゃ実力行使だ!かおりんりんの拾い食いは俺が阻止する!」

そういうと、相沢君は階段を落ちるように降りて無理矢理あたしから芋をとりあげようとしたので、

「香里ナックル!」

ずきゃっ!

「あべし!」

変な声をあげて一度のけぞったものの、またとりあげようと、今度はあたしに覆い被さってきた。

「っ!」

「芋破壊!!」

あたしが体勢を崩した瞬間彼の攻撃により、べふぉっ、という音とともに芋がとびちった。

でも散ったのは芋だけではない、あたしの焼き芋への期待もだ。

「……俺の負けだ。ほんとにもう誰にも言わないから」

「…い、芋がこなごな……これって……粉ふきいも?

「違う。……って、そうじゃなくて、芋ぐらい後で買えるだろ」

「……」

あたしは無言で相沢君の肩に思いっきり力を入れて手を置き、

「買ってくれるわよね?破壊したんだから」

「っていうか元々俺が買ってきた芋なんだけど…」

「今度はあなたがこの芋みたくなる番かしら?」

「相沢祐一は絶対に一連のことを他言せず、あなたに芋を買うことを誓います」

「ええ、それじゃあこの芋を掃除したら早速行きましょう♪」

「えっと、掃除は……」

「破壊した人の責任」

「……」

「やらないの?」

「そういうこと言ってると全てをバラすぞ」

「そんなことしたら今度はあなたを学校にとどまらず社会的に抹殺してあげるわ」

「頑張って掃除します!北川とともに!」

昨日とはうってかわってあたしの本気の目に圧倒されたのか、随分と素直だった。

「そう、早く終わらせてね♪」

相沢君はテケテケと情けない効果音を出しながら教室へ小走りで戻っていった。

もちろん相沢君は、投げたら粉々になったとだけと北川君に言っていた。

芋の礼だと文句も言わずに手伝った北川君が少し偉いとは思ったが、今はとにかく芋が食べたい。

芋を食べたら今日もツッコミの練習だ。

あたしは教室の窓から春の景色を眺めていた。

「桜が満開なのになんであの木だけ既に葉桜なのか、ツッコミたくなるわね……」

廊下の方から「芋が雑巾にひっつくー!」という叫びを聞きながら、そうつぶやいた。

 

 

 

 

 

あたしは美坂香里。

ごく普通の女子高生。

かわいい妹がいて、友達がいて、毎日を平凡に過ごしてる。

試験ではたまに学年一位をとったりもするけど、別にあたしは優等生面してるつもりはない。

だって、あたしは勉強に命をかけていないもの。

今のあたし……

今を生きているあたしが……

命を……かけるもの……。

それは……。

 

 

 

 

「老後のための貯蓄」←祐一

びしっ!←香里

 

 

 

 

そう……

 

 

 

ツッコミよ♪

 

 

 

終わり

 

 

コメント:

どうも、音速秘書です。

前後編の後編です。

香里のイメージがダウンですね。

こんなん、香里のファンサイトに送ったらしばらくの間ネットに出られなくなりそうですね、あはは。

他のSSでも必ず誰かがダメになってるし、私はイメージダウンSS作家ですか?

大学生活の軌道にのるまでお疲れモード継続だろうと思われる音速秘書でした。

それではまた今度。


戻る 相沢祐一はドアの角に足の小指をぶつけ、痛がりながら片足でとびあがりつつ廊下に出たら運悪く足を滑らせて階段から落ちた。 がたんごととんどががっ! ぐったり そこで秋子さんの一言 「痛いですか?」 秋子さんのその対応が痛い