本格的に芝居がかって舞先輩の暇つぶし

 

 


「初めまして。ところであなたが探していたボールペンは私が質に入れました。そんな奴ですが、どうかよろしく」

俺はそんな奴とどうよろしくやっていけばよいのだろうかと試行錯誤しながら夜の学校へ赴く。

すると廊下に紐を置いて丸い囲みをつくってその隣に立ちつくしている舞がいた。

「何やってんだ、舞」

「……」

「…?」

舞はおもむろに紐の中の囲いと俺を指さし、

「古池」

「俺は相沢だ」

「…違う。名字じゃなくて、古池の役」

「あ、そういうことか。悪いな、ついつっこんじまった」

古池の役というのがなんなのかはわからないが、とりあえず舞の指図に応じる。

舞は紐の中の囲いの方にむき直すと、

「古池や 川澄飛び込む 水の音」

どうやら俺は飛び込む時の”水の音”をやれということらしい…。

……蛙と川澄をかけてるつもりのようだ…が…。少し……。

そう思っていると、舞は紐の囲いの中にジャンプした。

「どばっっっっっしゃーーーーーん!!」

俺は思いっきり大声で言ってやった。

そしたら、

ごすっ。←剣の柄

「……っつ〜〜…なんで俺を攻撃する…」

とても痛かったため涙目になって文句を言うが、舞は口をとがらせて反論してくる。

「私はそんな大きな音を出すほど重くない」

「そんなアホな理由で俺は攻撃されたのか…」

「アホじゃない。かなり重要…」

俺としては大きな声で言った方がなんとなくテンションも上がって良いだろうと思ったのだが、舞は本気で不満なようだ。

「……だけどよ、小さな声で『ぱっしゃーん』とか言ったって、地味だろ」

「それはそうだけど…」

「暇つぶしに必要なのはエンターテイメント性だ」

「……わかった」

「うむ」

舞はそれでも不服そうではあった。

だがそれでわかったこともある。

「舞、お前でも体重気にするのか」

ごすっっ。

「…………」

さらにわかったことがある。

女性に身体的なことを聞いてはいけない(泣)。


「ずおー」

俺は吸い込みながら夜の学校へ赴く。

すると学校の制服ではなく企業の事務っぽい制服を着ている舞がいた。

「何やってんだ、舞」

「銀行員」

長机を置き、イスも舞が座っている向かい側に客用のイスがある。

「……お預かりでしょうか」

「あ、ああ。はい」

俺はイスに掛ける。

「じゃあ、2000円預けます。普通預金で」

財布から千円札を二枚取り出して渡す。

「んで、利子は?」

「年利0.3%」

「ほぅ、このご時世にしちゃ高い」

こく。

舞はうなずく。

「…………」

「……」

預けてはみたものの、この先することがない。

そう思った矢先、

「当行はただいま破綻いたしました。短い間でしたがありがとうございました」

「待たんか」

俺はシャッターをおろす真似をする舞の手をつかむ。

「破綻しても預金者保護制度で全額保証されるだろ。2000円返せ」

「当行はペイオフで10円が限度です」

ちゃりーん。←むなしさ炸裂

舞は無表情のままポケットから10円を投げた。

そして再びシャッターをおろす真似をする。

「…………」

 

 

俺はただ、10円を見つめた。

虚ろに…。

 

 

「……お客様」

俺は、1990円、この10円玉199枚分の悲しみに暮れながら立ちつくしていた。

そこに元銀行員となった舞が銀行を出てきた(という流れ)らしく、俺に話しかけてくる。

「残酷だ…」

俺はただの社員でしかなかった舞に、吐き捨てるように言う。

それが聞こえたのかはわからないが、申し訳なさそうに頭を下げた。

「…残りの1990円、お返しします」

そういって舞は懐から封筒を取り出し、俺に渡す。

「……返すって、ペイオフは10円じゃなかったのか?」

舞は首を横に振った。

「私の独断で」

「え?独断って…」

 

 

 

…預けたばかりだったから。

 

 

…これじゃ詐欺と同じだから。

 

 

…だからせめて、お客様1人ぐらいには返したかった。

 

 

…1990円を……。

 

 

 

ゆっくりと、優しく語りかけるように舞は言った。

「ぎ、銀行員さん……」

「だけど銀行から勝手にお金を持ち出したから、私はもう犯罪者です」

「……」

「だから、逃げなきゃ。さようなら……」

「あ、待ってください!」

俺はきびすを返した舞の腕をつかむ。

「……領収書ですか?」

「いや、今更そんなこと言わねぇ」

「……では何ですか」

「逃げよう、一緒に」

「……そんなことしたら、きっと迷惑をかけてしまいます」

「いや、きっとっていうかへたすりゃ俺も捕まるって話だけどな」

「…じゃあ何故」

「銀行員さんと逃げたいからに決まってるじゃねーか」

「……」

俺は舞が返事もしないうちに腕をつかんだまま走り出した。

さあ、まずは、どこへ行こう?

…………。

……。

 


「今、佐祐理が中庭ではしゃいでた気がする」

「は?!」

 


「先入観」

電柱がサボテンにみえてしまい、そのたびに自分に言い聞かせながら夜の学校へ赴く。

するとボールペンと紙が何枚も重ねてとめてあるプラスチックボードを持ち、服もいつもと違い何やら派手目のスーツを着ている舞がいた。

「何やってんだ、舞」

「アンケートにご協力下さい」

俺が聞くと同時にすすーっと近寄ってきた。さすがに身のこなしは素早い。

服をよくみると、胸元が大きくあいている。

こころなしか鼻腔をくすぐるような甘い匂いがする。

……。

俺は直感した。

このアンケートに答えてはいけないと。

「…お時間はとらせませんから」

「いえ、急いでるんで」

きっと答えたが最後、5000円とられて終わりだろう。

「……怪しい者ではありません」

「そういう場合が一番怪しいんですよね」

「怪しい者です」

「初対面で失礼ですが大馬鹿ですね」

「…………」

「じゃ、急いでますからこれで」

「…すぐに終わります、すぐに」

早足で歩いても横にぴったりマークして離れない。

相手は話のプロなのだから、聞き始めたら逃げるに逃げられなくなる。

最悪の場合その気になって何か変な物を買ってしまうかもしれない。

「…ほんの少しでいいですから」

周りに人がいないのをいいことにちょっと誘惑するような言い方をする。

「……じゃあ、アンケート一つにつき一枚脱ぎます」

100%詐欺だ。

俺は確信した。

アンケート一つにつき一枚脱ぐなんて無茶苦茶な話初めて聞いた…。どれだけ高い給料貰ってるんだ、キャッチセールス屋。

だが1個だけ気になることがある。

「ところでアンケートは何項目あるんですか?」

…………。

……。

 

 

……。

…………。

騙された。(しかも脱がなかった)


 

モーメント:

どうも〜(獰猛?)、音速秘書です。

舞先輩の暇つぶし、なんと第8弾(!)です。

今回は銀行員編がメインということで、かなり妙な感じになりました。

きっと舞のことです。あれをやる前に何度か銀行員の練習をしたに違いありません。

そんな奴だから祐一は舞をほっとけないのです。ええ。

そう思うと目頭が熱くなってきます(そうでもない)。

さて、このシリーズ、いつまで続くのはわかりませんが、また今度。

以上、音速秘書でした。


戻る けんちん汁 流浪にけんちん