授業をしっかり受けるための秘策 改訂版



「悔い改めよ」←北川
「おおー」←祐一
「わたしは悟りを開いた」
「おおー」
「今のわたしは北川ではない」
「じゃあ誰なのよ」←香里
「相沢」
「え?俺?」

「じゃあ北川君はどこへ行ったの?」
「渋谷」
そんな春の日の物語──(※上記のやりとりは本編といっさい関係ありません)


……。
…………。
「浮き稲が浮かないなら浮き稲ではないわけでつまり――」
2時限目の授業中。
ノートに写すのに忙しそうな奴、寝ている奴、3時限目の予習をやってる奴。1つのクラスなのに皆やっていることはさまざまだ。
「ソクラテスは沈み稲と――」
俺はというと、眠ることもなく、しっかり授業をうけている。
「水道水を涸れ井戸に注いで井戸水と言い張る若者が急増し――」
しかし俺は大いなる問題を抱えていた。
「―以上により答えはルート2になる」
何の授業だかわからない。
まあ、いいや…答えだけ写しておこう。
ルート2、と……。
答えだけ書いてあると意味不明だが、あとで香里あたりに聞けばわかるだろう。
「では次の問題、北川北川北川」
「何故三回呼ぶデスカ」
「北川を三回で北川サンだ」
「なるほど」
石橋と北川の息がぴったりなのが怖い。
「海洋深層水が2リットルで遠赤外線センサーによる貴族階級が化学反応を起こし――」
誰か……何の授業だか…教えてくれ。
…………。
……。



「香里、さっきの授業は一体何だったんだ」
俺は授業が終わると同時に香里に聞く。
「は?普通の数学よ。微分積分」
「だってよ、浮き稲がどうたらこうたらって…」
「そんな数学がどこにあるのよ」
「ねぇ祐一、さっきの時間ずっと寝てたでしょ」
「寝てたという記憶はない。だから寝てない」
横から名雪が口出ししてくるが我ながら見事な反論をする。
「どーせ寝ぼけてたんでしょうけど、確実に数学だったわよ」
「そんな記憶は本当にないのだが……香里が言うなら信頼せざるを得まい…」
あまり素直な性格しているとは言えない香里だが、ウソを言ってるワケではないようだ。
それに、香里は授業をしっかり聞いているしな。数学と世界史を間違たりはしないだろう。
「わたしの信頼は?」
「不良債権」
「ひどいよ…」
名雪はウソを言ったりはしないだろうが、普通に勘違いしてる可能性が高くて信用ならない。
「日本語ジャッパニーズ日本語ジャッパニーズ、YO、見事な閉塞感、come on」
「北川、突然割り込んで頭が悪くなるような歌を歌うな」
廊下から戻ってきた北川がアホを振りまきながら割り込んできた。
「オレが鎖国HIPHOPを熱唱してるのに頭悪いと言うか貴様は」
「言う。それより北川、さっきの授業は何だった?」
「言うなよ。数学だ」
「ごめん相沢君。やっぱり数学じゃなかったかもしれない」
「酷いぞ美坂……」
だが香里の言うこともわからんではない。俺も一瞬、数学じゃないかもしれないと思ったし。
「オレでもたまには正論を吐くことがあってもいいだろ!」
「なんかすげぇ情けない発言してるな、北川」
「北川君は間違ってるからこそ北川君なのよ?正しかったらアイデンティティの喪失に他ならないわ」
「なんかすげぇ容赦ない発言してるな、香里」
「わたし、不良債権じゃないよー」
「お前は寝てろ」
「うー……」
話の重要度はさておき流れに乗れないやつは排除する。
「オレは…間違ってることが存在意義だったのか」
「そうよ、北川君」
「今まで間違ったことをやることを恥と思っていたけど、それすらも間違いだったのか」
「そうね、さらに言えばそれが間違ったことだと気づいたことも間違ってるわ」
「じゃあ間違ってることが間違って間違い??え、アレ???」
北川は混乱している。
そこへ香里が柔らかい笑顔で言った。
「そう、正しい答えを導き出せないのがあなたのあるべき姿だから自信を持っていいのよ」
「そうなんだ…、ありがとう美坂!」
「どういたしまして」
途中から何がなんだかわからなかったが北川が納得したのでよしとする。
しかし香里は鬼だな…。
「なぁ鬼…じゃなくて香里」
「すぐに言い直す素直さが相沢君のいいところよね」
「それはどうも……あの、昼食は是非おごらせてください」
「あら、いいの? どうもありがとう。で、何?」
どうにか危険を回避をできたのでさっさと話を進める。
「さっきの授業はやはり俺が寝てたみたいだ。しかし俺は別にサボりたいワケじゃない、むしろ授業は聞こうと思ってる。でな、しっかり授業を受けられる秘訣とかないか、と」
「珍しく真面目な質問ねぇ。でもちゃんと授業を受けるためには授業を聞こうと意識するしかないわね」
「それは…無理だ。どうしても意識があちこちに飛ぶ」
「先に飛んでたオレの思考と駅前でたまに会ったりするもんな。ははは」
「ははは」
相手するのが面倒なので適当に笑って流す。(←酷い)
「他には何かないか?」
「唐辛子でも食べながら授業受けたら?辛くて眠れないわよ」
「もしくはいっそのことキムチになるとかな。オレみたく!
ばばーんと自分で効果音をつけながら仮面ライダー調の変身ポーズをとる北川。
「お前キムチだったのか」
「ウソに決まってるだろ、バカだな相沢はー!わははははは!」
この知能指数の低さに、むしろ俺は北川が人間だという事がウソなのではと疑っているが、口には出さない。
実は『しゃべるキムチ』、きっと北川はそのくらいで充分だ。
「しゃべるキムチはほっといて、ほんとに何かないか、香里」
「そうねぇ……、違和感……とかどうかしら?」
「い、違和……?」
最初、何を言っているのかわからなかった。
「イワカン?岩の缶詰か?固い岩もよく煮込んだら柔らかくなるのか?」
しゃべるキムチには全く理解不能らしい。
「『違和感』よ。いつも変わりばえしない教室にいるから緊張が保てないんでしょ。だから、いつもと何かが違う、でも何が違うのかわからないとなると妙な違和感を感じて眠れないんじゃないかしら?」
「そう…なのか?」
「さあ?あたしも今思いついただけだから効果のほどはわからないけどね」
「だがそれが気になって授業が身にはいらないんじゃ?」
「眠るよりマシっていう妥協策よ。ノートぐらいとれるでしょ」
「なるほどね」
「やってみる?」
「面白そうだ、やってみよう」
俺がうなずくと、香里は「名雪と準備をする」と言い(そーいや途中からいるのかいないのかわかんなかったな)、俺とキムチを教室から出ていくように言った。
「え?オレも缶詰探しやるの?」
こいつに違和感を求めるのは無理だと俺は思っている。



休み時間が終わる寸前に香里から入室許可が下り、席に着くと同時に4時間目が始まった。
クラスの奴らには説明をしたようで、何人かが俺と北川を見た。
”……間違い探しだな、違和感というより”
さて、正面を見ると4時間目、英語担当の教師がいつも通りに授業を始めている。
教師自体におかしなところはないようだ。首が異様に長かったり語尾に「でゅー」がついていたりもしない。
”でも、なんかおかしいような気がする……”
時計が逆に進んでたりしないし…黒板の文字が3Dで眼前に迫ってきたりしないし…横一列誰も休んでないところがテトリスっぽく消えたりしないし、っていうか消えたら怖いし…。
よく見ろ…相沢…。
違和感を見つけろ…祐一……!
今こそ奇跡を……!(←大袈裟)
と、ノートをとりながら(内容はわかってない)観察を続けたが……
”……ああ…わかんねぇっ!”
俺は何が違うのかわからないのに耐えられず、机につっぷした。
これ以上教室を真剣に見てたら頭がパンクしそうだったからだ。
”………………”
…………。
……。


「相沢君、どうだった?」
「すっげぇ寝た」
最初の10分しか記憶にない。
「……なんでよ、違和感のモトは見つからなかったんじゃないの?」
「ああ、”わかんねぇ!”って、机につっぷしたらいつの間にか。って何で見つからなかったって知ってるんだよ」
「だって、何もしてないもの。勝手に何か細工したと思いこむと思ってたから」
「……」
くっ……、この女……嵌められた。
「はぁ、せっかく一計を案じてあげたのに何にもならなかったわ。北川くんは最初から期待してなかったけど……」
と、俺が屈辱を味わわされたところに、意気揚々とずんだかずんだか行進してきたキムチが開口一番こう言い放った。
「美坂の髪の毛がいつも以上にうねってる!」



──北川が宙を舞う。

  ああ、こいつの血も一応赤いんだなぁ。

  バカが服着て歩いてるような奴だけど、

  今は空飛ぶバカだ──。




そんな事をちょっと思ってみたりもした。(終始笑顔で)


「しかし香里の思いつきとやらはあまり役に立たんな」
俺はガニ股っぽい変なポーズで倒れている北川を横目に嘆息する。
「悪かったわね、相沢君に適した方法が思いつかなくて」
「……いや、まあ考えてくれたんだから礼は言っておく。昼飯も奢る」
「あら、そういえばお昼休みじゃない。忘れてたわ」
「でも今から行ったんじゃ学食いっぱいだと思うよ」
「あ、名雪、そこにいたのか」
「……」
セリフがなくて(加えて描写もないので)いるのかいないのかすら判別不能な名雪だが、一応ここにいたようだ。
「確かに名雪の言うとおり今からじゃ遅すぎるわね」
「仕方ねぇ、何とかパンだけでも買って食うとするか」
北川をほっといて購買にむかった。




…………。
「はぁ……人多いっつーんだよ…」
「疲れたわね……」
「パンが少し潰れちゃったよー…」
予想以上に混雑していた購買でどうにかこうにか売れ残っていたうどんパン(うどんが入ってるパン)とボリボリパン(噛みごたえがボリボリしてるパン)2個を手に入れ、教室に戻った。
名雪と香里も不満の残るBランクのパンを手にしている。(ちゃんと香里の分は奢った)
「相沢以下3名!何でオレを置いてったのか説明せよ!」
教室に入るや否や復活した北川がドア近くに走ってきてわめく。じたばたするのでバカ丸出しだ。
「ほら、ボリボリパンやるから落ち着け」
「おおーーー?!相沢、オレのためにボリボリパンぅをぅをぅをぅをぅをーー?!」
「わかったから黙ってくれ…」
北川はボリボリパン愛好者だ。俺(というか北川以外)にはさっぱり良さがわからないが。
とりあえず俺が思った通り北川は嬉々としてボリボリパン片手に席に着いてくれた。


「ふむ……昼食を手に入れるのに疲れる…か。疲れれば眠くなるのは必然だよな」
うどんパンを食べながらふとその事に気づいた。
きっとうどんがぬるぬるして気持ち悪かったため脳の回線が誤動作してうまい具合に閃いたのだろう。
ありがとう、うどんパン。
「それは、疲れたら眠くなるのは当たり前よね。名雪を除いて」
「香里、祐一の偽情報に踊らされないでよー」
「……お前、明日から絶対起こしてやらないからな」
「ごめん、祐一」
「あっさりね、名雪……」
簡単に降参してぺこりと頭を下げる名雪。そんなんだったら最初から反発するなよと思う。
「話が少々ズレたが、きっと授業で眠くなるのは昼飯を買うときの疲労があるからだ」
「さっきの時間も寝てたじゃない」
「疲労の前借りだ」
俺は憮然として答える。
「香里、いちいちつっこんでたらこっちがストレス溜まるよ?」
「そのようね……」
二人は口を挟むのを控える気になったようだ。
「よし、北川、疲労がたまったらどうすればいいと思う?」
「ボリボリパン!」
ボリ!←ボリボリパンで叩いた

「……」
「それ以外の方法でだ」
「ありません」
「何故ボリボリパン以外の答えが無い」

「あたしは北川君だからだと思うけど。…あ、また口出しちゃったわ、つい」
別に今口出しされたからと言って文句言うつもりはない。むしろ北川に言いたい。
「相沢は何か疲労を回復する方法が思いついたのか?」
「当然だ」(ニヤリ)
「ほほう、お聞かせ願おうか」
「もとよりそのつもりだ。耳を貸せ。他の奴に聞かれて先を越されたらかなわんからな」
俺は名雪と香里の方をちらりと見る。
「……誰が先を越すのか見てみたいものね」
「うん」
どうやらこいつらに先を越される事はなさそうだが、失礼な事を言っているので不快だ。
「……ごにょにょごにょごにょごごにょごにょ」
「ほほう、ごごにょにょごにょごにょ、だな?」
「わかったか」
「おう…お前が敵じゃなくて良かったぜ」
北川は俺の案に肝を冷やしたのか、額の汗を指でぬぐった。
「確かにその方法なら疲労をとることはたやすい。そうなれば眠気もとれて授業を受けることができる……」
「丁度昼飯を食べ終わったし、善は急げだ。行くぞ北川ぁっ!」
「おうよっ!いざ屋上へ!」
俺達は立ち上がった。
「今度は一体何するつもりなの?」
「屋上で温泉を掘り当てる!」
「もし湧いたらそれ確実に水道管の破裂ね」

「何だと!香里はコンクリートの建物から温泉が湧かないとでも言いたいのか!」
「湧いたら怖いわよ」

香里は俺の考えを即座に否定しやがった。しかも隣で名雪も頷いている。
「学校の屋上に温泉があったら昼休みにビバノンノン午後はすっきり計画、俺の中では完璧だったのに……」
「どうして完璧な図が浮かぶのか知りたいわ……」
「何だ相沢、今の計画に何か見落としていた点があったのか?!」
「どうしてそれがこのクラスに2人も集中しているの……」
「奇跡だよ、きっと……」(←名雪、諦めの笑顔)

「失敬な、俺はただ授業を真面目に受けるがためブドウ糖で脳をフル回転させているだけだというのに」
「ねぇ祐一。そういう無駄なところに使うブドウ糖を最初から授業に使ったら?」
「おお、なるほど一理ある」
「………相沢君て、やっぱり素直よね…」
香里が急に疲れたように机にへたりこんだ。何故だ?
「しかしな、あれこれ考えておいて結局普通に受けるのが一番というオチは俺のプライドが許さん」
「じゃあどうする相沢?!」
「うむ」
そもそも俺が授業をうけようとすると眠くなる。
しかし何故か香里は眠らず授業を受けている。
そこから導き出される答えは……。
……!
「……そうか、そういうことだったのか!」
「何だ、何を思いついたんだ、相沢!」
「俺は香里になる!」
「ふざけるなぁっ!」
ばきっ!

「ぶはぁっ!」
いきなり北川に殴られた……。
「貴様、言っていいこととしゃべっていいことがあるぞ!」
「……結局言っていいんじゃねーか」
「あれ?」
「言っていいことと悪いことでしょ」
「そうそう、それだ美坂。悪いことがあるぞ!」
北川がわめいているがどうにも締まりのないキレ方だ。
「…俺は単に香里のつもりで授業を受ければいいんじゃないかと思っただけだ。きっとそもそも相沢祐一という人格が授業に向いてないんだ。だから美坂香里という人格のつもりでやれば授業も受けられる」
「あ、そ……。好きにして頂戴」
香里(と横にいる名雪)の、既に興味なしという態度がありありと窺えるのが少し癪に障る。
「ふん、見てろよ、俺は見事に授業をうけきってやるからな!あとで吠え面かくなよ!」
「……何でわたしたちが吠え面かかなきゃいけないんだろうね、香里」
「さあ?」



──そして5時間目

あたし、かおりん♪←祐一
ビッグバンと共に授業を受け始めた女。
常にアグレッシブなスタイルを貫徹してきたの。
書いては覚え、覚えては書き……。
時には覚えられない自分が嫌になってノートをバラバラに切り刻んだりもしたっけ。
だから……昔は『切り裂きノートの香里』なんて呼ばれた事もあったわね。
あの頃、本当、まだ平仮名もろくに書けなかったのに自分が頭がいいと思いこんでたなんて、今から考えれば我ながら笑っちゃうわ。
ちなみにアグレッシブとは攻撃的、積極的という意味。
『1192(イイクニ)つくろうアグレッシブ幕府』で簡単に覚えられるわ。皆も参考にしてね。
でもこれで覚えるとナニ幕府かわからないのが難点だけどね。
それと、ビッグバンは宇宙誕生時の大爆発のこと。
大体、百数十億年前なんだけど、正確には覚えてないわ。
そういえばあの頃は──


──────、


────、


────────、




──というワケであたしは二槽式洗濯機派なの。

……あら、あたしとしたことが少しおしゃべりが過ぎたみたい。
しっかり授業は受けなきゃね♪

きーんこーんかーんこーん──

「って、授業終わってるし!」
う……何か案の定っぽい展開だな……。
だがやはりここは一言びしっと言ってやらねばならないだろう。
そう思い、俺は教科書を片づけている香里の前に行った。


「なぁ香里、本当はちゃんと授業受けてないだろ」


──こうなることがわかっていながら言ってしまう自分が愛おしい。
宙を舞いながらそう思った。





次の授業はあまりの痛さで授業をしっかり受けられました♪(泣)



コメント:
お久しぶりの音速秘書です。
ええ、若干名の方はお気づきかと思われますがかのんSSこんぺに参加して145位だったやつです。
まー、そんなもんかなぁと。
というか私のSSが上位に来てたら真面目にSS書いてる方への冒涜な気がしてならないですし。
今回、この改訂版を出そうと思ったのは、SSこんぺがあるというのを知ったのが締め切り前夜だったため締め切り当日に構想0の状態で2時間ちょいで書いて、自分で読み直しする暇すらなかったから。
後で読み直したら顔から火が出るくらいにへなちょこでしたな。

んでもこんぺの感想にいろいろご意見をいただいてなかなか参考になりました。
文章の基本をしっかりと言われたのはイタイですが。元々文才のない人間なので一生無理かな……と。(しかも情景描写をめんどくさいものとしか思えない時点でアウト)
あと、よく私は電波系とか壊れギャグとか言われるような気がするんですが、自分じゃそんなつもりは全くないんですよねぇ……。別にありえないことをやってるわけでもないですし。
それと、他のSS作家さんに聞きたいのは、やっぱり普通は構想を練ってから書き始めるものなのかなぁ?と。
そんなことを思いつつまた今度。(今度はあるのか?)
SS作家さんを敵に回しまくりな発言をしている気がした音速秘書でした。


戻る 改訂版になり、さらに悪くなった可能性もなきにしもあらず 退化版? ゾンビ版