素敵なBirthday(中編)

 

祐一が水瀬家を出る少し前。

 

がちゃっ。

「ふう、あぶないあぶない」

受話器をおき一つため息をついて、香里は少し疲れた顔をしていた。

祐一と話しているときの香里は、何でも話してしまいそうになる。

香里にとって、祐一はそういう存在だった。

「あとはあの子次第ね」

これがお姉ちゃんからのプレゼントよ。そうつぶやくと香里は母親の手伝いをしにキッチンへと赴いた。

相沢君ならきっと気づいてくれる、そう信じながら・・・・・・

 

心当たりを探す。そうは言ってみたものの、祐一は何一つ手がかりをつかめずにいた。

学校、商店街、ゲームセンター、その辺からあたってみたが、どこにもいない。

気ばかりが焦ってゆく。

あとは・・・・・・

あそこしかない!そう思い、ふと自分の腕時計を見る。

「あ!」

ただ時間を確認しようと思っただけの行動であったはずなのに、祐一はその場に立ち尽くしてしまった。

もちろん現在時刻に対してではない。その他に並ぶ数字の羅列に対してだ。

祐一は急いでその場所へ行こうとも思ったが、あることを思いついて逆の方向へと走っていった。

 

「ただいま」

そう言って祐一が入っていったのは、1時間ほど前にとび出していった水瀬家だった。

それに驚いたのは名雪だ。

(香里、話が違うおー)

名雪はとっさに手に持っていた「何か」を隠した。

「あ、別に帰ってきたわけじゃないから」

名雪のそんな思いが通じたのか、こう一言だけ言うと祐一は足早に自分の部屋まで行き、目的のものをとってまた出て行った。

 

祐一が今立っているのは、広い周囲を木々に囲まれた公園。

1年前と何も変わらない雪景色が、そこには広がっていた。

祐一がこの場所に来るのは久しぶりだ。

この公園は1年前、祐一と栞が雪合戦をした場所であり、いっしょに食事をした場所であり、二人が初めてキスを交わした場所であり、

そして・・・栞の最期を看取る(はずであった)場所であった。

だからこそ、祐一は栞とこの地を再び訪れるのを避けたかったのだ。

しんみりするか・・・お互い照れくさくなるから。

そんなことを考えながら、祐一はあたりを見回した。

今日は平日。公園には誰もいなかった。ただひとりの少女を除いては。

「あ、祐一さーん」

少女は------栞は祐一を見つけるなりそうさけんだ。

 

「だめじゃないか」

栞のところに駆けていき、開口一番そう言った祐一だったが、

「何がですか?」

と怪訝そうに聞く栞に、何から話せばいいのか分からなくなって戸惑ってしまった。

祐一は一つずつ、ゆっくりと話していった。

体調が悪いのに外で遊んでいること、家族に何も言わずに家を出てきたこと、などなど。

一通り祐一の話を聞いて、栞はさらに疑問を持ったようだ。

「えーっと、私は体調を崩してなんていませんよ」

「へ?」

思ってもみない答えを聞いて、祐一はおかしな声をあげた。

「だって昨日、学校早退して帰ったろ」

「ええ。検査を受けに病院へ行かなければならなかったので」

「・・・そうだったのか」

つまりそのことについては祐一の思い過ごしだったようだ。

それに、そう言って栞は続けた。

「それに、私がここに来ていることはお姉ちゃん達も知ってますよ」

「はい?」

祐一はまたおかしな声をあげる。

「そもそもここに来るように言ったのはお姉ちゃんだし、出かけるときにもお母さんに言ってきたんですけど・・・」

!!!

このとき祐一にやっと事の全貌が見えてきた。

香里は嘘をついていたのだ。だからぎこちない受け答えしかできなかったのである。

でも何のために・・・

「祐一さん、それ、何ですか?」

おかしな言動を繰り返している祐一を見ていた栞は、祐一が手に何か持っていることに気がついた。

「あっ、これか?これは栞へのプレゼントだ」

「え?」

栞は一瞬驚いた顔をしたかと思うと、すぐに顔中をほころばした。

「覚えていてくれたんですか!」

そんなうれしそうな栞を見て照れくさかったのか、祐一は「ああ」とだけ言ってそっぽ向く。

そう。今日は2月1日。栞の誕生日である。

祐一はさっき腕時計を見たときに思い出しただけなのだが、そんなそぶりは全く見せない。

「開けてみてもいいですか?」

「いいけど、中身はわさびとからしとタバスコの詰め合わせだぞ」

「・・・そんなこと言う人、嫌いです」

一瞬想像してしまったのか、栞の顔は真っ赤だ。

しかし包みの中から出てきたのは、

「わぁ、可愛いストールですね」

そう、一枚のストールだった。

これは俺の最高傑作だ

「え?祐一さんが編んだんですか?」

「いや・・・冗談だ」

本当は今朝買ってきたものだ。

そう、祐一がいったん家に帰ったのは、栞へのプレゼントを買うために財布を取りに行くためだったのだ。

栞が1枚しかストールを持っていないということを前に一度聞いたことがあった祐一は、いつかプレゼントしたいと思っていたところだった。

 

「どうですか?祐一さん」

今まで羽織っていたストールをたたんで、祐一からのプレゼントを羽織った栞はそういうと、祐一の前でくるくると回って見せた。

うすい茶色と白のチェックを基調としたストールがふわりと膨らむ。

その光景につい見とれてしまう祐一。

そのとき、

「あっ」

止まろうとした栞がふらっとゆれて、前のめりに倒れかけた。

「おっと」

反射的に1歩前に出た祐一は、栞をしっかりと抱きとめた。

 

「すこしはしゃぎすぎましたね」

祐一の腕の中で少し照れくさそうに笑う栞。

そんな仕草が可愛くて、祐一は急にキスしたくなった。

そーっと顔を近づけていく。

「え?え?祐一さん?」

最初は少し戸惑った栞だったが、祐一が何をしようとしているのかに気づくと、そっと目を閉じた。

細かく震えるまつげがとてもいとおしい。

そのまま二人の影は近付いていって・・・・・・

 

<つづく>

 

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   あとがき

季節感を全く無視してSS書いてるしのむんです。これを書いてる今は、気温35度とかへーきで超えてそうな真夏日です。

これ読んで少しでも涼しくなっていただけたら幸いです。(涼しくなる要素なんてどこにもないなぁ)

 

うーん、会話と地の文の比率が悪いなぁ。随分説明口調だし。

ま、自分に文才があるとは思ってないけどね。

 

さて、私のSSも2つ目となり、少しずつ話の全体像が見えてきたと思います。

あと1つ、多くても2つの話で完結させるつもりなので、出来れば最後までお付き合いください。

それでは。

 

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