)この作品は、やまけんさん作『泣き虫な女の子は、泣き虫なままで。』の続編ということで、
  しのむんが勝手に書いたものです。
  これを読む前にそちらのほうを読んで頂くことをお勧めします。

 

 

 

 

 

 あれから何日が経ったのだろう。
 あたしが名雪にあの話をしてから。
 そして、親友でなくなってから。

 変わらない通学路。
 変わらない学校。
 変わらない教室。
 変わったのは―――あたしたちの心だけ。
 名雪とはあの日から一度も口を利いていない。
 相沢君も、名雪への接し方に戸惑ってるみたい。

 それでいいと思ったこともあった。

 でも―――やっぱりつらい。

 分かっているから。名雪の気持ちが。

 こんなとき、やっぱり物事に引き金になるのは―――

『香里、話があるんだ』

 相沢君の一言だった。





 Kanon
 あたしの大切な人





 日曜日。
 あたしは二度と足を踏み入れることは無いと思っていた場所へと赴く。
 水瀬家―――名雪の家。

 相沢君の話、それは。

『今度の日曜日、うちに来てくれないか』

 うちに来てくれないか。
 それはあたしに名雪と話をしろ、ということ。
 そんなこと出来るわけないじゃない。
 そう突っぱねられたら、どれだけ楽で、どれだけ辛かったのだろう。

 ピンポーン
 あたしの心中とは裏腹に、ドアチャイムは軽い音を立てて鳴った。

「よく来てくれたな」
 ドアを開けたのは相沢君だった。
「来いって言ったのは相沢君でしょ」
「そりゃそうだが・・・」
 そういう意味ではないことくらい、その言葉にどれだけの意味があるのかくらい分かっていた。
「まあ、中に入ってくれ」

「あら、香里ちゃんいらっしゃい」
 階段を上る途中で秋子さんに声をかけられる。
「お邪魔してます」
「ゆっくりしていってね」
 笑顔で立ち去る秋子さん。
 あの人は分かっているのだろうか。
 自分の娘を苦しめているのが今自分が笑顔を向けた相手だってことに。
 自分の信頼している甥を奪った相手だってことに。
 多分知っているのだろう。
 それでも笑顔で迎えられる、それがあたしの何かに責められる以上の衝撃を与えていた。

 

 一枚のドア。
 たった数センチのその壁に、無限の厚みを感じる。
 そこに掛かっている、猫の飾りのついたネームプレート。
 そこには「なゆきのへや」と書かれている。
「じゃあ、いくぞ」
 ドアをノックしようとする相沢君。
「ちょっと待って」
「どうした?」
「あたし一人でいかせて」
相沢君の顔がこわばるのがはっきりとわかった。
「でも、香里・・・」
「お願い」
これはあたし自身の問題なのよ。
「・・・分かった」

 こんこんこん。
「入ってもいい?」
 返事は無かった。
 返事が無いのを『拒絶はしない』ととって、あたしはドアノブをまわす。

「名雪・・・」
 名雪は窓辺に立って外を眺めていた。
 あたしが中に入っても振り向こうとはしないその背中に、想いの強さを感じる。
「あのね、名雪、」
「何しに来たの」
 やはり振り返らずに声をかける名雪。
「どうせ祐一と仲良くしてるところを私に見せつけに来たんでしょ」
「違うわ!」
「違わないよ!」
 そんなこと無い。そう言い切れない自分が悔しかった。
 今の名雪にはそうとしか映らないだろうから。
 だから、あたしには何も言えなかった。
「おかしいよ・・・」
 名雪は見る見るうちに涙声になる。
「わたし、ずっと待ってたんだよ。祐一のこと」
「それは知ってるわ」
 いつも聞かされてたから。
 もういいよって、十分分かったよって言ってあげたいくらい聞かされたから。
 ―――でもそれは過去のこと。
 今となっては懐かしいとすら思える、過去のこと。
「なのにどうして!どうしてなの?何で・・・」

『何で香里なの!』

 あたしだから、なの?
 死にそうな気分ってこういうときのことを言うのかしら。
 痛かった。
 精神的ダメージがこれだけ大きいものだなんて知らなかった。
「分かってるよね、香里」
「わかってるって何が?」
 そんな気持ちを悟られたらいけないと思い、必死に平静を装うあたし。
「香里は、いろんなものを壊したんだよ」
 分かってるわよそれくらい。
 だから今ここにいるんじゃない。
 今日ここに来たんじゃないのよ。
「それなのによく、のこのこわたしに会いに来れたよね」
「聞いて、名雪」
「嫌、聞きたくない」
「ねえ、聞いてよ」
「嫌だよ!」
 はっきりと拒絶を表す名雪。
「じゃあいいわ、聞かないでも」
 そのかわり、
「あたしは今から独り言を言うわ。あなたは勝手に聞いてもいいし、もちろん聞かないでもいい」
 そしてあたしは語りだした。

 

「あるところに一人の女の子がいたの。その子はいじめられっ子で、いつも泣いてた」
 そう、泣き虫の女の子だった。
「でもあるときね。その子を助けてくれた女の子がいたの」
 とてもやさしい女の子。
「いつもはのんびりやさんのくせに、その子に何かあるとすごく一生懸命になったの」
 自分のことをそっちのけでね。
「それから二人は親友になったわ」
 そしていつも一緒だった。
「学校ではもちろんのこと、休みの日にも一緒に遊びにいったり、お買い物にいったりするくらい仲が良かったの」
 でもね。
「その子に好きな人が出来たの。でもね、その好きな人っていうのが親友のとても大事な人だったのよ」
 大事な大事な人。
「それで迷ったんだけどね、やっぱり嘘はつけないって言って、その親友に打ち明けるの。『その人が好きです』って」
「・・・その親友は何て言ったの?」
「とても怒ったわ。それで、親友の縁を切っちゃうのよ」
「・・・・・・」
「でもね、女の子は思ったの。大切な親友を失いたくないって」
 自分でも知らない間に涙が出てくる。
「虫が良すぎるわよね。あたしって」
「香里・・・」
「でもね、事実なのよ!あたし、やっぱり名雪を失いたくない!」
 涙が止まらなくなってきた。
「自分がどれだけ自分勝手なのか分かってる!どれだけひどいことを言ってるのかも分かってる!だけど・・・」

『やっぱりあたしとって名雪はかけがえの無い、大切な友達なのよ!』

 そこまで言うと、あたしは床に崩れ落ちた。
「香里!」
 名雪が駆け寄ってきてあたしを抱きとめる。
「ごめんね。名雪、ごめんね」
「謝らないでよ!わたしだって、わたしだって・・・」
 香里は大切な友達なんだから!
「名雪?」
「わたしもね、今でも香里のこと、大好きだよ」
「えっ?」
「だから許せなかった。わたしに何にも相談しないで、隠れてこそこそして祐一と仲良くしてたこと」
「そっか・・・」
「一言くらい相談してくれたっていいんじゃないの?親友として」
 皮肉るような名雪の言い方。そこにもあたしに対する思いが感じられた。
 名雪を傷つけまいとしてとったあたしたちの行動。それが逆に名雪を傷つけてたのね。
「でもね・・・」
「でも?」
「一番許せなかったのはわたし自身」
 名雪、自身?
「自分の大切な二人が幸せになろうとしてるのに、それを心から祝福してあげられなかった。それどころか絶交だなんて」
「違うわ、それは・・・」
「違わないよ。やっぱりわたしってひどいよね」
「名雪・・・」
「だからごめん」
 そう言って素直に右手を差し出す名雪。
「あたしのほうこそ、ごめん」
「あっ・・・」
 右手を握り返す代わりに、名雪を強く抱きしめる。
「香里、苦しいよ」
「これで仲直り、でいい?」
「うん・・・」
 よかった。
「でもね」
 そう言ってあたしの肩をぐいっと押しのける名雪。
「祐一はあきらめないから!」
 真剣な目で訴えかけてくる名雪。
 そんな顔されると・・・
「ぷっ、はははははっ」
「あ、笑った!ひどいよ〜」
「ごめんごめん」

 その後ひとしきり笑いあったら、もやもやした気持ちがすっきりと晴れ渡った。

 

 

 それからというもの、あたしと名雪は親友であり、ライバルになった。
 その争い(?)に巻き込まれた相沢君は、今までとは違った意味で困惑している。
 でも、いいよね、こういう争いなら。

 これで・・・よかったんだよね。 

 

 

 

 おしまい

 

あとがき

でんぱっぱを御欄の皆さん、お久しぶりです。しのむんです。
もう、私のことを知ってる人も少ないのではなかろうか(笑)

やまけんさんのSSを見ていて急に続きを書きたくなって、それで出来たのがこれなんですが・・・

祐一と香里、という設定って難しいんですよね。
名雪やら栞やら(今回は栞は省きましたが)設定がきわどくなるキャラが多すぎる。
私も昔書こうと思ったのですが、栞が不幸になるのが嫌で断念(爆)
結局誰かが不幸になる可能性が高いんです。
それをあえて決行したやまけんさんてすごいですよね。
私もそういうのが書きたかったんですけど、結局こういう結末にしちゃいました。
でも、どちらもアリだと思うんですよ、私は。

またどこかでお目にかかれることを願って。
それでは〜。

 

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